第4話 残念ながら、貴方はゲームオーバーです

 

「いやぁ~、感動的!! 良かったですねぇ~。彼女を出品した方も感無量でしたでしょう。さて、ここでルールその4。『入札者が出た時点で競りは終了』ですぅ~!!」



 最初の商品が8千万円で落札された。

 競り落とした人物が喜んでいるかたわらで、他の4名は複雑そうな表情を浮かべている。


 その原因は、彼らのモニター画面に表示されていた資産残高まで減っていたからであろう。



「ふひひっ。他の方々は何だか難しい顔をしておりますね~。ですがそれも仕方のないことでしょう。なぜなら、ルールその5に『即決額と入札額の差額は、入札者以外の参加者で均等に負担』とあるからです!!」



 5番目のルールに則り、落札していないはずの他4人にペナルティが課されていた。


 定められていた即決額は1億円。そこから入札額である8千万円を差し引いた2千万円を、この4人で負担しなければならない仕組みだ。つまり今回は1人当たり、5百万円の負担である。


 何もしないにもかかわらず、これだけの金額を支払うというのは中々の痛手だ。特に落札が終わっていない者にとっては、勝手に資金を減らされていくのは特に苦しい。


 とにかく不確定要素の多いこの連帯責任オークションでは、こうした多種多様なストレスが雪崩のように積み重なっていく。精神的に追い込まれ、攻撃的になる者も出て来るだろう。



「こ、ここからはダイジェストで参ります……。だ、第1回連帯責任オークションにおける最大の見所は、何と言っても3つ目の商品が落札された時でした。この回で、支払い能力を越えてしまった方が……と、とうとう現れてしまったのです」



 映像がスキップ再生され、3つ目の商品が発表されるシーンでストップした。


 出された即決額は、なんと5億円。


 中央モニターに莫大な額の数字が表示された瞬間。

 参加者のひとりである大男が突然、椅子の上でガタガタと震え始めた。大量の脂汗をかき、「そんな」「不味い」「このままでは」などとブツブツ呟いている。


 ちなみに彼に残されている資産は3千万円。これまで超高額な競りの連続だったにもかかわらず、それだけの額を残しているのは称賛に値するだろう。


 だが、彼はある事実に気付いてしまった。そして焦っていた。一刻も早く、どうにか入札しなければならない。それも自分が、ではない。他の誰かが、である。



 即決額は5億円。入札額は10分ごとに10%ずつ値下がりしていく。……ということは、1回のターンで5千万円ずつ下がっていくということだ。


 この仕組みで入札されずに進行すると、最終ターンの入札額は5千万円となるはず。これを逃せば商品は0円となり、競りそのものが流れる。


 要するに、財産が残り3千万円である彼は今回、どうあがいても入札することができない。


 ……だが、だったら入札しなければ良いだけの話である。そもそも、今回は彼が希望した商品が出品されたわけではなかった。


 では彼はいったい、何をそんなに恐れていたのか?

 その理由は、6番目のルールにあった。



「ルール、その6。『入札者がおらず、ゼロ円になった場合は参加者全員で負担』……彼はこのペナルティを思い出したのでしょうねぇ。ふひひっ、焦ってしまうのは致し方のないことです」



 希望した商品にもかかわらず、何かしらの理由により誰も入札しなかった場合。最初に提示されていた即決額を、5人で分割して支払うというルールである。


 この場合、商品は誰の手にも渡らずに出品者の元へと返却されることになっていた。さらに5人が支払った金銭は運営と出品者が得るという、参加者以外にしか全く旨味の無いルールだった。


 そして彼が最も恐れていたのは、このまま最後まで誰も入札しなかった場合だ。

 5億円を5人で分割ということは、1人当たりの負担額は1億円である。3千万円しか持たない彼には、到底支払えるような額では無かった。


 絶体絶命である彼に残されていた手段は、たった一つ。他の4人の誰かに、一刻も早く落札させることだ。



「ぐ、具体的に言うならば……期限は3回目のターンまで、でした。4億円で入札されれば、差額の1億円を4人で負担すればいいのですから。に、2500万円でギリギリ最後の競りへと繋げることができる。でっ、ですが……」



 残念なことに、それが叶うことはなかった。

 彼はターンの合間の休憩時間に、どうにか他の参加者に入札するよう促した。……だが、それを素直に従えるような余裕は、生憎と誰も持ち合わせてはいなかった。


 むしろ焦る彼を、何か裏があるのではと疑っているようなフシさえ窺えた。



 そして3回目のターンが終了した瞬間……彼は発狂し、他の参加者の集まる休憩室で暴れ回った。



「我々は機器の破壊など、進行そのものを妨害しない限り、手を出しません~」


「つまり参加者間の諍いに、我々の介入は一切無しッッ!!」


「ふひひっ。ですが、参加者のどなたかに武術の心得があったのでしょうねぇ……。この後彼は抵抗むなしく拘束され、ご自身の部屋へと閉じ込められてしまいました」



 結果、7回目のターンで参加者の1人が2億円で落札。ルールに則り、差額の3億円は4人で分割されることになった。


 7千5百万円を支払えなくなった彼は、を負うことが確定した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る