第2話 リョナラーと呪われた娘
◇2◇
水と油の如く仲が悪い2家が目をひん剥くことになったのと、ウィンスキー家が注目されたのは同じ12年前だった。
誰もが考えもしなかったし、あり得ないことであったことをウィンスキー家の次男のクレビィックがやってのけた。
当時、ウィンスキー家は財政が厳しく一族全員がろくな生活が出来ておらず、子供達は8人もいたが、何人かは病気や栄養失調で死んでいた。
ダビウスが手駒を増やす為凄まじい数の女性と交わった為、ロベルスキの一族には数え切れないほどの親戚がいた。
ウィンスキー家はロベルスキ家の末席ということもあり親戚であるいくつかの家から十分な援助を受けていた。
しかし、クレビィックの両親は飛んだ狂人で最低な人だった。
金を使いたいだけ使い贅沢な暮らしをし、好きなだけ交わり、生まれた子供は他人に任せ捨て置き、赤ん坊の鳴き声が煩いと父親が撲殺したこともあった。
クレビィックもただ目があっただけで暴力を受けたり、わざわざ部屋にやってきた両親に拷問を受けさせられたりした。
クレビィックは非常に心優しい少年だったが、兄弟が次々に死に、殺され、自らも暴力を受ける中で価値観に歪みが生まれて行った。
7歳から学校に通っていたクレビィックであったが既に価値観が歪み始めており、友達はできなかった。
15歳になる頃には妙な性癖に目覚め、世でいう美人が酷くブサイクに感じていた。
クレビィックは死と暴力に満ちた少年時代を送ったせいで醜い女性に惹かれるようになっていた。
醜いとはいえ、クレビィックの母のように性格の醜悪さではなく身体が傷ついていたり、呪いによって異様な形になった部分を持つ女性を恋愛対象として見るようになっていた。
ロベルスキ家は呪いの大家だけあり、呪いがかけられても簡単に治せるだけの技術を持つがばかりに、呪われた女性などいるわけもなく、クレビィックは禁忌を無視してシルビス家に手を出した。
シルビス家はロベルスキ家に及ばずともそれなりに分家がある一族であったが、血が濃いほど呪いは強く、姿も言っちゃ悪いが人間離れする。
肌が紫色だったり、髪の毛がなかったりするのはまだいい方で、血が濃いほど、シルビスの本家に近いほど、姿は異形である。
特にクレビィックの一つ下、次女ミリア・シルビスは多くの呪いを背負って生まれた。
誰かに裂かれたような大きな傷を背中に持ち、下はアリクイのように長く、耳は笹のように尖っていて、左手は変色し、右足は膝から下が萎びたように細く皺々だった。
また彼女の母が美しい声を持っていたのに対し、ミリアは獣が唸るような不気味な声を出すことしかできなかった。
それ以外は父と母の美貌を継いでいたが、今まで殆ど存在しなかった複数の呪い持ちに、多くの親族が怯え、婚約者も決まらなかった。
そんな中、婚約を申し込んだのがクレビィックである。
ミリアはシルビス家の生まれで、クレビィックはロベルスキに名を連ねるウィンスキー家のもので、本来お互い仇のような相手であった。だから二人の結婚はへべックとピュークの結婚以上に許されないものだった。
幸運なことに、クレビィックは育児放棄され、ミリアも貰い手がおらず、親や兄弟には可愛がられてはいたが、放任されていた。
誰も預かり知らぬところで二人は出会い愛を重ね、その結婚が許されないものだと思い駆け落ちした。
クレビィックは、美貌を呪いによって醜い部分をもつミリアの姿に凄く興奮していたし、ミリアも自らの醜い姿を美しいと本気で言ってくれたクレビィックに惚れていた。
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