第3話 隠れた才能


教室の後ろの方に座った僕とアスナは、どちらからともなく話始める。

まだ先生はやってこないし、他の生徒もまばらだ。

とにかくまだまだ暇なのだった。


「そういえばアスナ、さっきはなんで教室の外へいこうとしてたの?」


「恥ずかしい話だけど……正直、レインに出会うまで不安で仕方なかったの……。言葉も通じないし、知り合いもいないしね……。それで、ここから逃げ出したくなったのよ」


「そうなんだ……辛かったね……」


「でも、もう大丈夫! レインと友達になれて、本当によかったわ!」


そう言われると、こちらとしても嬉しい。

なんだか少し照れくさいけどね。


「ていうかそもそも、言葉も通じないのに、どうしてこんなところに? ここは冒険者学校なんだけど、もしかしてそれもわかってないんじゃない?」


「えぇ!? ここってそんなファンタジーな場所だったの!?」


「あぁ、やっぱり……」


『ふぁんたじぃ』っていうのは、ちょっとまだ僕のスキルじゃ訳せないみたいだけど……。

とにかくアスナは全然よくわからないままに、ここに座ってるってわけだね。


「私たちがこの世界に来たとき、他にも仲間がいたの」


「へぇ……そうなんだ」


今その人たちがここにいない、ということは……ちょっと想像したくないかもね……。

無事だといいけれど。


「その中に、先生がいたんだけどね……オウガ・クズタニっていう名前よ」


「うん、それで?」


「そいつは酷い教師だった。ここが異世界だとわかると、生徒をかたっぱしから犯し始めたのよ。あ、もちろん私は逃げ出したけどね」


「うわぁ……」


どこの世界にもいるんだなぁ、そういうクズ。

この学校にもムノーウ先生とかいう意地悪な先生がいるけど、そこまでひどくはない、はずだ。


「それで、見つからないように、人の多い場所を探してたら、ここの入学式に紛れ込んだってわけ」


「そうなんだ、それは酷い目にあったね。でも、アスナ……君が無事でよかった」


「へ!? あ、ありがとう……。でもね、他の生徒が心配なのよね……。知ってる子はいなかったんだけど、それでも……ね」


「そうだね、ほとぼりが冷めたら、捜索願いでも出そう」


「質が悪いのは、生徒たちはみんな喜んで抱かれてたところなのよね……。吊り橋効果? っていうのかしら、頼れる大人が先生しかいないから、もう心酔しきっちゃって、まるで教祖と信者ね」


「うわぁ……それは……」


「あ、でも……私の他にも何人か逃げ出した子はいたみたいだけど……」


「無事だといいね」


「うん」


とにかく、アスナには行く場所がないんだね。

本当に、頼れる人がいないんだ。

だからこそ、僕がしっかりして守らなくちゃな。


「アスナ、ここはFクラスの教室なんだけどさ、その……制服をもらうときに、スキルとか聞かれなかった?」


この学園は、制服のリボンの色でクラスを認識できるようになっている。

僕たちはFクラスだから緑。


「そうねぇ……言葉が通じなかったから、わからないけど、なにかすっごく怒鳴られたわね」


きっと、面接官の人はアスナがわざと黙っていると思ったのだろう。

まさかノイアール語を話せないなんて思わないだろうしね。

それで、アスナのステータス画面を見ることもなく、Fクラスにしたんだね。


「アスナ、ちょっと……ステータス画面を見せてくれる? もしかしたら、すごいスキルを持っているかもしれない」


「うん、いいけど……どうやるの?」


「ステータスオープン! って言うだけだよ」


「わかったわ。ステータスオープン!」



―――――――――――――――――――――――――――


【名前】アスナ・ナナミ

【レベル】1

【職業】学生

【種別】人間


【保有固有スキル一覧】

・《炎のファイア要塞フォートレス

・《火炎龍神の召喚マグナ・イフリート

・《赤色のクリムゾン巨人ゴーレム創造クリエイト

・《全基礎炎系スキル使用可能》

・《真炎フラム爆発プロージオ


―――――――――――――――――――――――――――



「これは……すごいぞ……!?」


僕はアスナのステータスを見て、驚いた。

だってこんなスキル……見たこともない!

全部アスナの言う『にほんご』とやらで書かれているみたいだけど、アスナに読み上げてもらった。


「え? なに? そんなにすごいの、これ? 私、ゲームとかあんまりやらないから、わかんない」


「その、げえむ……っていうのはわからないけど、とにかくこれはすごいよ!」


「へぇ」


なんだかアスナは興味なさげだ。

僕だけ驚いてしまって、なんだかギャップがすごいな。


「全部戦闘向けのスキルだし、これだったらAクラス、いや……特例でSクラスも夢じゃないよ! 今すぐ先生に言って、クラスを変えてもらおう」


「ま、待って……! それはダメ!」


「……え?」


どうしてだろう、Sクラスにまでなれば、奨学金ももらえる。

それに、住むところもいらなくなる。

今のアスナのような状況からすれば、そうするのが一番だと思うけど……?

僕がそのことを説明するも――。


「だって、レインから離れると、言葉が通じないんでしょ? それに、せっかくレインと友達になれたのに、離れ離れは嫌だよ……」


「うーん……そっかぁ、確かにそれもそうだね」


僕だって、アスナを護ると決めたばっかりじゃないか。

無責任な提案だったと、反省する。

こうなれば、僕もSクラスに上がるしかない。


「よしアスナ! 僕も絶対に追いつくから、いっしょにSクラスを目指そう!」


「うん! そうね! レインといっしょなら、私はどこまでもいくわ!」


こうして僕たちは、さらに絆を深めて、いっしょに高みを目指すことになった――!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る