57話 伝説のモンスターを討つ

「行きます。モードチェンジ!」


 アルカの身体を、虹色の光が包む。


 光が消えたとき、アルカは煌めく弓を持っていた。


 前に鍛冶師さん達に夕食に招いてもらった時に、アダマンタイトの応用について話が盛り上がった。その中で、アダマンタイトを混ぜた金属で弓を作れば凄く威力のある弓が作れるのではないかという話になった。


 僕はその場でアルカ用の弓を注文した。


 そして今回アルカがお使いに街に戻ったとき、完成した弓を受け取ってきたのだ。


 アダマンタイトをふんだんに使った弓は、人間ではまず引くことができない硬さだ。だが、その代わり10倍の威力がある。


 しかもアルカの動作の精密さと計算能力は、弓による狙撃ととても相性が良い。


 今のアルカは純白の衣を身にまとい、背中にはまばゆい翼が生えている。


 その姿は、まさに天使。


 これがアルカの新しい遠距離戦闘特化形態【狙撃形態スナイプモード】だ。


 翼で飛ぶことはできないが、風向きのセンサの役目を果たしている。


 アルカが剛力でアダマンタイト弓を引き絞り、放つ。


 矢はメネストサウルスから少し離れた地点へ一直線に飛んでいく。そして強風に流され、メネストサウルスの頭に正確に突き立つ。


「本当に当たった……! 流石ですマスター、この形態、弓の狙いがとても付けやすいです!」


 当てたアルカ自身も半ば信じられないようだ。


 メネストサウルスがこちらを見た。普通のモンスターなら身体に大穴が開いて即死する威力の矢だったのだが、ビクともしていない。


 だが、メネストサウルスはこちらに敵意の籠った瞳を向けている。僕たちは、敵としては認めてもらえたらしい。


 神話級モンスターに僕たちの力が通用している。その事実に、背筋をゾクゾクしたものが駆け抜けていく。


 メネストサウルスが口を開き、魔力を集中する。そして2週間前にもみた、氷の吐息を放つ。


 アルカとマロンが湖の外周をダッシュして、氷の吐息を回避する。2人が一瞬前までいた場所を氷の吐息が吹き抜け、吐息に触れた木々を一瞬で凍り付かせる。どころか、周りの空気の水分も凍結し、巨大な氷塊が出来ていた。


 湖の外周を走るアルカとマロンに向けて、メネストサウルスが氷の吐息を連射する。


 2人が走って氷の吐息から逃れていく。2人が走るすぐ後ろに、巨大な氷塊がいくつも出現する。


 氷の吐息に直撃すればどんな生き物だろうと即死は免れない。ゴーレムのアルカであっても、再起不能なまでに内部が破壊されるだろう。


 ひたすら走ってアルカとマロンが氷の吐息を振り切っていく。


 一見すると反撃できず押されているが、実は作戦通りだ。


 メネストサウルスの意識がアルカとマロンに向いているうちに、池の外周に待機させていた、ゴーレム300体がゆっくりと湖に入り、メネストサウルスを包囲していく。


 水が完全に抜けていないので、ゴーレム達は腰まで水につかる。水に浸かりながらも、徐々に包囲網を狭めていく。


「まだだ……まだ………まだ………今だ、一斉射撃!」


 僕の号令で、300体のゴーレムが一斉に矢を放つ。豪雨の如く、矢がメネストサウルスに降り注ぐ。


”キュオオオオオオオォ!”


 メネストサウルスの怒号が、ダンジョンにこだまする。いいぞ、押している。


 怒ったメネストサウルスがターゲットをインスタントゴーレム達に切り替えた。氷の吐息で片端から凍らせていく。


 ありがとう、インスタントゴーレム達。君たちのおかげで、メネストサウルスに勝てる。


 インスタントゴーレム達が繰り返し矢を放つが、どんどん数を減らされていく。


 だが、このインスタントゴーレム達も囮だ。


 メネストサウルスが最後の一体のインスタントゴーレムを氷の吐息で凍らせたとき、メネストサウルスの背後側から、ガレックが現れた。


 1メートル以上残っている湖の水をものともせず、水しぶきをあげながらガレックが猛然とメネストサウルスに迫る。


「いけ、ガレック!」


 メネストサウルスは、その体型からして近接攻撃手段がほとんどない。氷の吐息を攻略して、懐に入れれば物理で殴って勝てる。


 長い首で振り返り、メネストサウルスがガレックを見つける。


 ここまでで、およそ5秒。インスタントゴーレム達が稼いでくれたこの5秒は、何より貴重だ。


「アルカ、マロン! 例の作戦だ!」


「了解しました!」

「了解ニャ!」


 天使姿のアルカが、腕を大きく振りかぶる。 


 そしてマロンがその腕に飛び乗る。


「行くニャー!」


 アルカが渾身の力で腕を振る。同時にマロンもアルカの腕を蹴って跳ぶ。


 アルカの腕力とマロンの脚力が合わさって、爆発的な速度でマロンの体がメネストサウルスめがけて飛んでいく。そしてマロンが棍棒を振りかぶる。


「喰らうニャ! 合体奥義、【メテオストライク】!」


 勢いを乗せた棍棒の一撃が、氷の吐息を放とうとしていたメネストサウルスの頭を殴り飛ばす!


 ガレックを狙っていた氷の吐息は狙いがそれて、無意味に湖を凍らせる。




 アルカとマロンの合体奥義で作った隙を使って、ガレックがメネストサウルスに突撃していく。岩の塊のような拳を振りかぶり、全力でメネストサウルスの頭部に叩きつける。


 その威力は、大砲の直撃以上だ。


”ゴシャァ!”


 更にガレックが連撃を繰り出す。メネストサウルスが後退していく。


 しかし、メネストサウルスはまだ息絶えない。


 メネストサウルスが首を振り回し、ハンマーのようにガレックに叩きつける。


”ズゴオオオオッ!”


 1トンを超えるガレックが、まるでおもちゃのように吹き飛ばされる。


 一直線に湖の外周まで飛んでいき、そこでようやく止まる。


 ガレックの手足のダメージは大きい。本体は無事だが、戦闘はとても続行できない。


 マロンが棍棒でメネストサウルスの背中を殴り続けているが、ダメージはあまりない。


 突如、メネストサウルスの目の前で虹色の光が弾ける。


 アルカが、#戦乙女形態__ヴァルキリーモード__#にチェンジしていた。


 メネストサウルスの目をかいくぐるために、#隠密形態__ステルスモード__#になって近づいていたのだ。


 一瞬何が起きたか分からず硬直するメネストサウルスに、アルカが斬撃を叩き込む。


「ミリオンスラスト!」


 メネストサウルスがのけぞる。しかしまだ倒れない。メネストサウルスの巨大な口が開き、魔力が集中する。


 すべてのものを凍てつかせる絶対零度の息吹が再び放たれ――


「――させません! ミリオンスラスト!」


 メネストサウルスの攻撃より一瞬早く、アルカがとどめの一撃を叩き込む。


 見上げるほどのメネストサウルスの巨体が、ゆっくりと傾いていく。水しぶきと地響きとともに倒れる。


 ――そして、微動だにしなくなった。


「……やったんだな」


「はい、私達の勝ちです、マスター!」


 アルカが煌めく笑顔を向けてくる。


 僕は緊張の糸が切れ、その場に膝をついてしまう。


 アルカも魔力が限界らしく、へたり込んでしまった。


「ナット様、村のみんなも無事でしたニャ! 本当にありがとうございましたニャ!」


「「ありがとうございましたニャ!」」


 マロンが、湖中央の島に取り残されていた沢山のキャト族を連れて来た。


 誰1人欠けず、階層守護モンスターを倒すことができた。間違いなく、僕らの完全勝利と言えるだろう。

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