29話 聖剣を賭けて勇者と決闘することになる

「それでは、ブロンズアームグリズリー撃退成功を祝して! カンパーイ!」


「「「カンパーイ!!」」」


 夜。


 僕とアルカ、そしてブロンズアームグリズリー討伐部隊のメンバーは酒場に集まっていた。


 祝勝会を開いているのだ。


 冒険者ギルドからの報酬は、冒険者ギルド側が配分を決めてくれた。冒険者に任せると、必ず揉め事になるからだ。


 今回の戦いで僕が得られたものは、


ギルドからの報酬金として金貨80枚(10年以上遊んで暮らせるほどの大金)、


毎日クエストをこなしても貯めるのに1月以上かかる貢献度ポイント


そして、ブロンズアームグリズリーの甲殻。


 あまりに重くて運べないので、アルカの魔法で異空間に格納してもらって持ち運んできた。


 強度は申し分ないのだが、防具にするにはあまりに重すぎる。何か他の使い道を考えよう。


「いやー、まさか俺たちがあの災害級モンスターに勝てるなんてな」

「伝説になっちゃうぜ」

「ナットさんと一緒に戦えたことは、一生の思い出だ」


 みんなジョッキを片手に、口々に語り始めている。


「今日の祝勝会のお金は僕が持ちます! 皆さん、存分に食べてください!」


 僕が呼びかけると、メンバーから歓声が上がる。


「今日勝てたのは、皆さんの力あってこそです。リーダーとして、これくらいのねぎらいはさせてください」


「イヤイヤイヤイヤ、何言ってるんスか。今回勝利できたのは、ナットさんとアルカちゃんのおかげっスよ。むしろ私達がお2人の分も払った方がいいくらいっス。ご馳走になりますけど」


「そうだぜ、俺たちは指示された通りに落とし穴を掘って矢を射かけただけだぜェ。それはそうとしてご馳走になるぜェ」


 例のモンクさんとパラディンさんが、奢りと聞いた瞬間ものすごい勢いで料理を食べ始めた。


 ーーその時。


「ここにいたか、ナット!」


 勇者ハロンが勢いよく酒場に入ってくる。


 凛々しい顔と艶やかな髪は、土で汚れ切っていた。


 あれ、もしかして今までずっと落とし穴に埋まっていたのか?


「……あの、もしかして誰も勇者様を引っ張り出さずに帰ってきちゃいました?」


 誰かが引っ張り出してくれているだろうと思って、完全に忘れていた……。


「俺も誰かが引っ張り出すだろうと思ってほっといたぜ」


「いけね、すっかり忘れてた!」


「俺は忘れてなかったぞ! だがあえて放って帰ってきた」


「私、どさくさに紛れてカンチョーしてやったっス!」


 こら!


「ナット、あの落とし穴程度でこの私がくたばると思ったか! モンスターに尻をすこしつつかれたが、この通り私は無傷だ!」


 すいません、それモンスターじゃないです。


「だが、この屈辱は晴らさせてもらう! 私と決闘しろ、ナット! 完膚なきまでに叩きのめしてやる!」


 勇者ハロンが指を鳴らすと、酒場の入り口からリエルさんが入ってきた。


「ナットさんこんばんは〜。無傷でのブロンズアームグリズリーの討伐、おめでとうございます♪」


 どうやらここに来る前に先に冒険者ギルドに寄って、リエルさんを呼んで来たみたいだ。


「ナット。私が貴様に要求するのは、勇者パーティーで使っていた荷物運び兼戦闘用ゴーレムの修理と、再び私のパーティーに加わりゴーレムのメンテナンスをすることだ」


「なんだって、ナットさんを一度パーティーから追放しておいて、勝手すぎるぞ!」


「そうだそうだ! わがまま勇者め!」


「あったま来た! もう一回カンチョーしてやるっス!」


 やめなさい。


「もちろん、決闘を受けるも受けないもナットさん次第です♪ さぁ、どうしますか?」


 答えは決まっている。ここで、勇者パーティーとの縁を完全に断ち切る!


「やります。では僕は、ハロンさんが2度と僕とアルカに関わらない事を要求します」


「相変わらず無欲ですねぇ、ナットさん。一方のハロンさん、かなり無茶苦茶な要求をしていますよ? これでは釣り合いませんねぇ」


 リエルさんがまた天秤のように両手を広げる。天秤は勇者はロンの方に傾いていた。


「わかっている。私が負けた時は、これを差し出そう」


 勇者ハロンが、腰から聖剣を引き抜く。


 まるで工芸品のような美しい刀身の輝きに、酒場にいる全員の視線が吸い寄せられる。


「これは我がモルナック家に代々伝わる聖剣【バーレスク】。価値で言えば、キキとカカが前の賭けに出した家などより遥かに高い」


「おお、噂に名高いその聖剣を賭けていただけるなら、立会人として文句はありません♪ ナットさんはよろしいでしょうか?」


 僕は無言で頷く。


「ちなみにその聖剣、本当に賭けてしまっても良いのですか? もし負けて失ったら、大変なことになるのでは?」


「フフ、確かに私が負けたら大変なことになるだろうな。


 父上は激怒するだろうしもう二度と実家には顔を出せない。これまでの稼ぎは全て防具に使ってしまったから、武器もない一文なし勇者になってしまう。


 だが、勝てばいいだけのことだ。私が負けるはず等ない」


「負けたら大変ですねぇ。頑張ってくださいね、勇者ハロンさん♪」


 リエルさんがとてもウキウキしたような表情を受けべているのを、僕は見逃さなかった。


 勇者ハロンが負けて落ちぶれるのを楽しみにしているのだろう。相変わらず危険な人だ。


「勝負は明後日の正午! 場所は前回と同じく闘技場! 両名とも、全力を尽くしてくださいね♪」

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