16話 勇者パーティーとの決闘開始

 ――翌日、正午。


 僕とアルカは選手として、市民闘技場の控え室にいた。


 負ければ、また勇者パーティーでゴーレム技師兼雑用要員として働くことになる。


 僕はアルカと2人で、冒険者としてダンジョンに挑みたい。


 勇者パーティーとの縁を断ち切り、自分の未来を切り開くために、この戦いは絶対に負けられない。


 ……流石に緊張するな。


「大丈夫ですよ、マスター。マスターの立てた作戦に抜かりはありません。必ず勝てます」


 アルカが励ましてくれる。


 そうだ、僕が弱気になってどうする。


「そうだな、きっと勝てる。よし、行こう!」


 僕とアルカは、選手としてゲートから闘技場へ入場する。


”ワアアアアアアアアァァ!!”


 途端、集まった観客の熱気に圧倒される。


 すり鉢状に並んだ数千の観客席は満員だった。


 『勇者パーティーを追放された影の功労者』VS『現勇者パーティーメンバー』というカードは、それほど魅力的なのだろう。


 勇者という存在は、凄まじい影響力がある。


 僕の目の前には、楕円の広い開けた地面が広がっている。


 ここが今日の決戦の場だ。


 闘技場の反対のゲートからキキとカカが入場してくる。すると観客がまた更に沸き立つ。


「おらおらおらおらおら! 勇者ハロンパーティーの2大エース! キキ様とカカ様のご登場だぜ!」

「兄者と俺が組めば無敵だぜ! ナット如きに負けるわけがねぇ!」


 2人が腕の筋肉を誇示するポーズを決め、威張り散らしながら近寄ってくる。


 頭は良いほうではないが、2人はれっきとしたプラチナ級冒険者だ。勇者パーティーにいたのはだてではない。こうして向かいあうと実力がひしひしと伝わってくる。


 間違いなくこれまでで一番の難敵だ。


『レディース! アンド! ジェントルメン! 観客の皆様! お集まりいただきありがとうございます! さぁ、それでは早速ルールの説明をさせていただきましょう!』


 いつの間にかリエルさんが闘技場の中央に立っていた。観客にもしっかり聞こえるように、魔法で声を大きく響かせている。


『勝敗条件は至ってシンプル! どちらかが負けを認めるか、戦闘不能になるまで戦ってもらいます』


 たったそれだけの説明で、また観客が湧く。


『今日の決闘では、両者にはそれぞれ大事なものを賭けてもらっております!


 ナット&アルカチームは、負ければ勇者ハロンのパーティーに戻って働き、


 キキ&カカチームは、負ければ二度とナットさんに関わることはせず、金貨300枚を差し出します!』


「金貨300枚だって!? すげぇ大金だ!」

「それだけあのナットっていう少年に価値があるのか!?」

「どっちが負けても大変なことになるぞ!」


 観衆がどよめく。


「金貨でもマイホームでも命でもなんでも賭けてやるぜ! だって俺たちが負けるはずねぇからな!」

「兄者の言うとおりだ! 俺たち兄弟に敵なんかいねえんだよ!」


『さぁ盛り上がって参りました! 実は私、イキって調子に乗った人が無様に負けてみっともなく破滅するのを見るのがたまらなく好きでして! この決闘立ち合い人の仕事も敗者の顔を見るためにやっております』


 !?


 リエルさんが突然えぐい性癖を暴露し始めた。


『どちらとは言いませんが、今日はとっても調子に乗った男がいるようで。私、今から決着の瞬間が楽しみで仕方ないです!』


 今日のリエルさん、何というかめちゃくちゃ楽しそうだ。ヤバい。


「ナット、イキって調子に乗ってるヤツってのはお前のことだぜ?」

「兄者の言うとおりだ! すぐ調子に乗るのがお前の弱点だぜ、ナット!」


 そうか、僕は調子に乗っていたのか。

 

 自分では気付かなかった。無意識のうちに自信過剰になってしまっていたらしい。気を付けなくては。


「マスター、あんな兄弟の言うことを真に受けてはいけませんよ」


 アルカに肘をツンツンとつつかれる。


『私のテンションも観客のボルテージも上がってきたところで! そろそろ始めましょう!』


 リエルさんが右手を大きく振り上げる。


『唯今を以て! 冒険者ギルド本部! 決闘裁定機関所属! 決闘立ち合い人、リエル・ミズイ―の名の下に! ナット&アルカ 対 キキ&カカ の決闘を開始する! ――始め!!』


 リエルさんが腕を振り降ろす。


 決闘の火蓋が切って落とされた。

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