14話 勢いあまって1日でブロンズからシルバー級冒険者に昇格する

 日がとっぷり暮れたころ、僕たちは冒険者ギルドに戻ってきた。


「まず、こちらが採取した薬草です」


 受付に、薬草の入った麻袋を提出する。


 受付のお姉さんが、袋をはかりに乗せる。


「……はい、量は十分です。1本1本丁寧に摘み取られていますので、質も申し分ないです。流石ナットさんですね」


 受付のお姉さんが褒めてくれる。冒険者としての仕事を褒められるというのは、これまでにない充実感がある。


「それで、もう1つのクエストのラージラビットの駆除なんですが――」


――


「ええ!? これだけのラージラビットを1日で捕まえたんですか!?」


 冒険者ギルドの前に止めた荷馬車の中。ぎっちり積まれたラージラビット(の入った麻袋)を見て、受付のお姉さんが大分面食らっていた。


「いや、少し頑張り過ぎたかなーとは思うんですけど……」


「少し、ではないですね」


 突っ込まれてしまった。


「はぁ……これだけラージラビットを捕まえてきたのはナットさんが初めてです。駆け出し冒険者は1日に5羽くらい捕まえられれば良いほうですね。確か麻袋2つ分くらいが過去の最高記録だったので、大幅更新ですね」


 記録を更新してしまった。


 本当はこのクエストでは、ラージラビットを駆除した証明としてラージラビットの耳だけを提出すれば良い。


 が、せっかくなので食用としてラージラビット本体も食用として買い取ってもらった。


 冒険者ギルドはこういったモンスターの素材の買取も行ってくれる。冒険者としてはとてもありがたい。


「あ、ちょっと使う予定があるので、1羽だけ手元に残しておきたいです」


 と言って僕は麻袋からラージラビットを1羽取り出す。


「マスター、それはもしかして夕食用ですか?」


「いや、ラージラビットの素材を使って少し試してみたいことがあるんだ」


「またとんでもないことを考えていますね?」


 と、受付のお姉さん。


「ふふ、次は私たちをどんな風に驚かせてくれるのか、楽しみにしていますよ」


 受付のお姉さんはいたずらっぽい笑みを浮かべている。


 薬草とラージラビット、買取金額は合計で金貨3枚と銀貨2枚。これでしばらくは生活に困らない。アルカの装備も充実させてやれるだろう。


「さて、ナットさん。これで今回の貢献度が……あっ」


 受付のお姉さんが何かに気付く。


「ナットさん。今回のラージラビットの大量駆除で、貢献度ポイントが一気に貯まりました。そして……シルバー級冒険者への昇格試験の条件を達成しました」


「ええ!?」


「そしてシルバーへの昇格試験の内容なのですが、幾つかの中から好きなものを選ぶことができます」


 受付のお姉さん一覧表を出してくる。


「そしてその中に……こういうものが」


 ”ラージラビットの駆除。合格条件:1日に20羽以上”


 僕達が今日駆除したのは、優に100羽を超えている。


「……ええと、この場合ってどうなるんですか?」


「滅多にないケースですがこういった場合、試験を省略することができます」


 つまり。


「ナットさん。シルバーへの昇格おめでとうございます」


 と言って、受付のお姉さんがシルバー級冒険者のライセンスを差し出してくる。


「やりましたね! おめでとうございます、マスター」


「驚いたなぁ……これで僕もシルバー級冒険者かぁ」


「驚いたのはこっちの方ですよ、もう! 1日でブロンズ冒険者卒業なんて、歴代でも数人しかいないんですからね! そしてそんな偉業を達成した人はもれなく後に勇者の資格を得ています」


 そうか、そんなに凄いことをしてしまったんだなぁ。


 これならゴールド級やプラチナ級冒険者、いや、勇者になって自力でS級ダンジョンの最奥に挑めるかもしれない。


 と、思ったところで僕は頭を振るって欲望を振り払う。


 うぬぼれてはいけない。ゴールドやプラチナ級に上がるのはそんなに簡単ではない。


 思いあがると足元をすくわれる。気を引き締めていこう。


「マスター、今日はお祝いに少し豪華な食事にしませんか?」


「いいね、そうしよう。アルカも沢山頑張ってくれたし、今日はアルカの好きなものを食べに行こう」


「よろしいのですか!? でしたら……私、ステーキというものが食べてみたいです」


 軽い足取りで僕らは冒険者ギルドの出口へと向かう。


 と、僕らの行く手をふさぐように3人組が立っていた。


 よく知った顔、勇者ハロン一行だった。

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