【勇者SIDE】5話 勇者、ゴーレム技師のありがたみを思い知る

――勇者ハロン行きつけの酒場。


 勇者ハロンの一行は、珍しくまじめな顔で話をしていた。


「壊れたゴーレムは直せない、道には迷う、素材の剥ぎ取りには失敗する、生焼けの肉を食って腹を壊す。……もう散々だ!」


 勇者ハロンが拳をテーブルに振り下ろす。


「こんな調子ではとてもダンジョン探索はできん! 報酬の取り分は減るが仕方ない、【サポーター】を1人雇うぞ。2人とも、文句はないな?」


「「ないです!」」


 キキとカカが元気にうなづく。


――――――


「――というわけで、【サポーター】を新しくパーティーにむかえたいのだが」


 勇者ハロン一行は、冒険者ギルドに来て、受付嬢に話しかけていた。


「かしこまりました。では、どのような【サポーター】をお探しですか?」


「そうだな。ゴーレムのメンテナンスは無理だろうから……料理と皿洗いとマップ作成と索敵とトラップ解除とモンスターの素材剥ぎ取りと洗濯とギルドへの報告書作成ができる人材はいるか?」


「ええ、そんなに沢山の仕事をですか!?」


 ギルドの受付嬢は驚きを隠せない。


「それから、当然S級ダンジョンに入る度胸のあるやつだ」

「兄者の言うとおりだ。あと、偉そうなやつはだめだ。おとなしくてまじめなやつがいい」


「要求が高いですね……そんな人材は居ないと思いますけど……。あ、居ました」


「「「やったー!!」」」


 勇者ハロン一行はとびはねて喜ぶ。


「名前は、ナットさんです。明日の冒険者試験に合格すれば、ですが」


「「「ナットかー!!」」」


 勇者ハロン一行は膝から崩れ落ちる。


「ぐぬぬ……! だが確かにナットなら雑用もこなせるし、ゴーレムのメンテナンスもできる……」


 勇者ハロンは床に崩れ落ちたまま歯ぎしりする。


「――! ……そうか、私は気付いてしまったぞ! ダンジョン探索が上手くいかなくなった原因は、ずばり。ナットが居なくなったせいだ」


 まるで、この世の真理に気付いたかのような顔で女勇者ハロンが言う。


「な、何だって勇者様ー!? ……だけど確かにそうかもしれねぇ! ナットはゴーレムのメンテナンスも雑用もやっていたからな」

「そこに気付くとは! さっっっすが勇者様、すんげぇ頭いいぜぇ!」


 受付嬢は、勇者ハロン一行を『まさかこんなに馬鹿だったなんて』と言わんばかりの目で見下ろしていた。


「「「……だけどナットに『戻ってきてくれ』なんて頭を下げるのは絶対に嫌だな!」」」


 3人の意見が一致する。


「まぁどうしても、ナットが戻ってきたいというならば。もう一度私のパーティーに入れてやっても良いが。仕方なくだが」


 うんうんと兄弟もうなづく。


 ――その時、女勇者ハロンが閃く。


「思い出した! ナットを追放した時、確かメンテナンスの説明書を貰っていただろう」


 勇者ハロンが勢い良く立ち上がる。


「あれを探し出そう! 破ってしまったが、貼り合わせれば読めるはずだ! 捨てたのは1週間前、まだゴミ処理場にあるかもしれない!」


「「流石勇者様!!」」


 こうして勇者ハロン一行は、街のゴミ処理場へと向かった。


 ――――


「お。お前たち、新入りか? 若いのに苦労してるな。頑張ろうぜ」


 ゴミ漁りをする勇者ハロン一行に、先にごみ漁りをしていた身なりの汚い男達が声をかけてくる。


「弟よ、なんだあいつらは?」

「兄者、きっとあいつらも大事なモノを間違って捨てちまったんだぜ。プププ、馬鹿なやつら」


 意気揚々とゴミをあさる勇者ハロン一行。そこへ、中年の優し気な女性が通りすがる。


「ああ、あなた達若いのにかわいそうに……」


 女性は、哀れみの声とともにパンの切れ端を勇者ハロン一行に渡して去っていった。


「……何だったんだ? あの女性は」

「勇者様、もしかしてあの女、俺たちのことを”ごみ漁りしないと生きていけないほどの貧乏人”だと思ったんじゃないですかい?」

「わっはっは! 兄者の冗談は面白いな! 俺たちがそんな貧乏人に見えるわけないだろう!……それにしても、なんで勇者パーティーである俺たちがゴミ漁りなんかしなきゃいけないんだ」


 文句を言いながら勇者ハロン一行はごみ漁りを続ける。


「お、いい紙見つけたぜ~」


 と、横でごみ漁りをしていた男の1人が笑顔で破れた紙の束を掘り出す。


 それは、ナットが勇者ハロン一行に渡した説明書とよく似ていた。


「おいそこの男! その紙を私によこせ!」


「嫌だよ。オレはこの紙でウ〇コしたあとの尻を拭くって決めたんだ」


 紙を拾った男が大事そうに紙を抱える。


「ぐっ……! 分かった。タダとは言わん。金貨を1枚やろう。さぁ、さっさと渡せ」


「イヤだね。この紙が欲しけりゃ、金貨2枚よこしな」


 男は交渉が上手だった。


「くううううぅ! 足元を見よって! 良いだろう。ほら、金貨2枚だ。これで――」


「――やっぱやーめた! 金貨3枚! 金貨3枚と交換だ」


 勇者ハロンがブチ切れる。


「貴っっっ様ぁー!! 金貨2枚と言ったではないか!!」


「気が変わったんだよ。金貨3枚? くれるの? くれないの?」


「ぐぅ……! す、少し待て……! 今考える……」


「待てねーよぉ。あー、腹痛い。さっさとウ〇コして尻をこの紙で拭いちゃおっと」


「止めろぉ! 分かった! 金貨3枚! 金貨3枚渡すからぁ!!」


 ――結局女勇者ハロンは、紙を金貨3枚プラス銀貨4枚と交換した。


「おのれおのれおのれぇ! これほどの屈辱は初めてだ! これも全てナットのせいだ! 追放すると言ったくらいでパーティーから出ていきよって……!」


 怒りで顔を真っ赤にした勇者ハロンと兄弟が、破れた紙を貼り合わせていく。


「よし、これで最後の一枚だ。完成したのは――」


 ――『美味しいカレーの作り方』


「「「違う紙だこれ!!」」」


 完成したのは、数十枚ある料理のレシピだった。


「へ、返品だこんなもの! こんな紙切れに銅貨1枚の価値もない!!」


 しかし紙を貼り合わせている間に、紙を最初に拾った男はどこかへ消えてしまっていた。


 ゴミ処理場には、役に立たない紙切れと呆然と立ち尽くす兄弟、そして顔を真っ赤にしてゴミの中でジタバタ暴れる勇者ハロンだけが残された。








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