第7話 成長魔法

 僕は領地に行くための準備をした。

 ウィッグが用意され、それをかぶる。


 髪の長い自分は慣れていないので、不思議な感覚がした。


 領主らしい立派な服も用意してもらった。何着かバッグに詰める。


 シンシアは僕が治めることになる領地に、書状を送ったようだ。

 元々、代行していた人がいたようなので、その人への書状だそうだ。


 もしかしたら、その人が僕が領主になると怒るのかと思ったけど、どうやら違うようだ。

 あまり領地運営などを行うタイプではなく、解任されて怒るどころか、ほっとしているだろう、との事だった。


 準備も全ておわり、領地に出発する日になった。


 シンシアがお出迎えに来てくれた。


「しばらくはお別れだ。書状は書くから、きちんと返答はするのだぞ」

「かしこまりました」

「そうだ。これは話さなければない。打倒帝国を目標に掲げる私ではあるが、いきなりそれは無理だ。その前に乗り越えなければいけない壁がいくつかある。

 私の目下の目標は、トレンス王国を親帝国主義から、反帝国主義に変更させることだ」

「は、はぁ……どうすれば変更させられるんですか?」


 戦うことはやってきたが、政治の話は詳しくないので親帝国主義、反帝国主義とか言われても、漠然としか分からない。


「結局ものを言うのは力だな。君には、来るべき時のため、成長魔法の力を使い領地をとにかく強くしてほしい。私が望むのはそれだけだ」

「分かりました。頑張ります」

「うむ、頑張れ」


 シンシアにそう言われると、何だかやる気が湧いてくるような気がした。

 彼女には不思議な言葉の力があるのかもしれない。


 僕はファリアナと一緒に、馬車で領地へと向かった。





「ここが、僕の治める領地……『ハクシュトア』か……」


 ハクシュトアは、トレンス王国の東端にある、小さな領地である。


『プラウス湖』と呼ばれる大きな湖の近くにある領地であり、漁業が盛んだ。

 それ以外に特徴はなく、人口もあまり多くはない。


 僕は領主の屋敷へとまずは向かった。


「これが屋敷?」

「はい」


 僕の質問に、隣にいたファリアナが無表情で返答する。


 木造の家で、屋敷というより通常の民家と同じくらいの大きさの家だ。


 家に使われている木の状態から、家が建ってから、だいぶ年月が経過していると予想できる。


 スラム時代を考えれば、住める場所があるだけありがたい。僕は屋敷の質は特に気にしないことに決め、中へと入った。


 中もボロい。歩いたら床がギシッと音を立てた。


 あまり急いで移動すると、床が抜けてしまうと思ったので、慎重に移動した。


 そして、椅子に座る。


「さて、最初に領主について説明をいたします」


 事務的な口調でファリアナはいった。


「あ、待って。最初に成長魔法について教えてほしいんだけど、いい?」

「問題ありません。成長魔法の魔法検査の結果が書かれた紙は、持って参りましたか?」

「うん」


 僕は頷いて、魔法検査紙を取り出した。


 僕が使える魔法と、使える回数が記載されている。


「成長魔法は他者の能力を上昇させる魔法でございます。自分に使うことは出来ないという点は、留意しておいてください。それでは一つ一つの魔法の効果を説明していきます」


 ファリアナは、魔法の効果を一つ一つ淡々と説明してきた。


 まとめるとこんな感じだ。


『グロー』……生物を成長させる。


『サーチ』……他者の能力を見る。


『ローマジックアップ』……ランダムで低級、中級の魔法の使用回数を一回増やす。成長魔法は増やせない。


『ハイマジックアップ』……ランダムで上級、最上級の魔法の使用回数を一回増やす。成長魔法は増やせない。


『フィジカルアップ』……身体能力を上昇させる。限界値以上には上がらない。


『フィジカル・リミットアップ』……身体能力の限界値を上げる。


『テクニカルアップ』……器用さを上昇させる。限界値以上には上がらない。


『テクニカル・リミットアップ』……器用さの限界値を上げる。


『インテリアップ』……知力を上げる。限界値以上には上がらない。


『インテリ・リミットアップ』……知力の限界値を上げる。


『スキルアップ』……技能レベルを上げる。


『オールアップ』……身体能力、器用さ、知力を上げる。限界値以上には上がらない。


『オール・リミットアップ』……身体能力、器用さ、知力の限界値を上げる。


『オール・マジックアップ』……成長魔法を除く、全ての魔法の使用回数を一つずつ増やす。


『オール・スキルアップ』……習得してる全ての技能を1上げる。


 ちなみにそれぞれの魔法の使用可能回数は、


 グロー 9380回

 サーチ 10000回

 ローマジックアップ 221回

 ハイマジックアップ 100回

 フィジカルアップ 1200回

 フィジカル・リミットアップ 210回

 テクニカルアップ 1110回

 テクニカル・リミットアップ 151回

 インテリアップ 880回

 インテリ・リミットアップ 110回

 スキルアップ 1204回

 オールアップ 320回

 オール・リミットアップ 100回

 オール・マジックアップ 5回

 オール・スキルアップ 511回


 こういう感じ。

 オール・マジックアップは、効果がいくら何でも強力すぎるから、5回だけのようだ。いや、全部増やせるのなら、5回でも多いくらいだけど。


 ほかは全部百以上ある


「何か質問はございますか?」

「うーん、そうだね。身体能力とか器用さを上げるってのは、分かるんだけど、スキルアップてのがよくわかんないんだけど。技能ってのは具体的に何なの?」

「技能とは、剣術や弓術などの技術のことです」

「なるほど……魔法を使ったら、上達するんだね。でも、技術って持ってない人いそうだね。僕なんて特技ないし」

「いえ、技能は誰しもが持っているものです。例えばライル様。あなたは、現時点で立っている場所から、あの扉まで行くには、何をしますか?」

「え……? それは……歩くと思うけど」

「そうですね。歩行します。歩行も立派な技能の一種です」


 歩くことも技能なのか……当たり前に誰でも出来ることも、技能の一種なんだな。


「スキルアップを使い、技能が上達すると、『ひらめく』ことがあります。例えば、剣術を上達させる際、ただ闇雲に剣を振るのではなく、技の練習の練習もしますね? スキルアップを使い、剣術を上達させると、練習もしていないのに技を使えるようになります。これは天啓を得たかのように、突如使えるようになったと分かるので、これをひらめきと呼んでいます」


 何か面白そう。どんな感覚か、自分に使ってみたいけど、出来ないんだった。残念。


「また、技能の上達には頭打ちがあります。身体能力、器用さ、知力などの基礎ステータスによって、その限界値は決まります。例えば歩行技能を上げる場合は、身体能力がある程度高くないと、すぐに限界値に達してしまいます」

「なるほど……限界値なのにスキルアップを使っちゃたら、残りの使用回数は減るの?」

「魔法が発動自体がしないので、減ることはありません」

「そっかー。ところでスキルアップで、技能を新しく習得させたりは出来ないの?」

「鋭い質問です。新しく習得させることは出来ません。0から1には出来ませんが、1から2、3と上げることが出来るのです。最初の習得は自身でやらないといけません。と言っても、0から1にするのはそう難しくはありません。例えば剣術の場合、剣を持ち一回でも振れば剣術を習得することができます」

「一回振ればいいんだ。それは楽だね」


 ファナシアの説明で、スキルアップについての疑問点はなくなった。


「さて、一回私にサーチを使ってみましょう。10000回あるので、無駄撃ちしても、特に問題はないでしょう」

「サーチ? 何で?」

「サーチを使うことで、成長魔法で能力がどのような形で上がっているのか、理解できます」

「は、はぁ」


 サーチって能力を調べる魔法だったよね。それでどのような形で上がっているのか理解できるって……


 うーん、よく分からないけど、使ってみるか


「分かった」


 僕はサーチは発動させた。


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