天才といわれる俺が、女誑しと呼ばれてるんだ

コグレメグル

本編

プロローグ

いつもの日々

みお、今回は珍しく悪かったな。天才なのにな」


 期末考査の成績表を僕に渡しながら担任はそうつぶやいた。

 意味もなく、ただ反射的に謝った。

 そして表情を変えないまま自席に戻って、小さく溜め息をついた。


「げんなりしてるってことは、悪かったんだな?」

「そうなんだよ、たまたま悪かった」

「お前、天才なのに低い成績取るのか」

「俺は天才じゃないよ」

「またまたぁ、お前天才なのに否定すると周りからヘイト買うぞ?馬鹿にしてんのかって」

「本当のことだよ」


 にやにやとそう聞いてくるあおいに俺は目も合わせず答える。

 こいつとは部活とクラスが同じで、いっつも俺の横にいる。

 別にペアが同じな訳でもない。苗字は俺が椿つばきで、葵は橋本であって、出席番号が近いわけでもないが、気づいたら俺の横にいるのだ。


「澪ー。今日は部活ないから、かえってゲームでもしない?」

「ん-いいぞ。気分転換にゲームでもするか!久しぶりにFPSやらね?」

「えー、しょうがないな。付き合ってやろう」


 何故か偉そうに胸を張る葵。無い胸を張るな、弱く見えるぞ。

 そんな他愛もない会話をしていたら『終礼はじめっぞー』と担任の声が響いた。

 葵はじゃあねとつぶやいて自席に戻った。


 終礼では特に大きい連絡はなく、『テスト終わって気を抜きすぎるなよー』というありがたい言葉と共に終礼は終わった。

 残っていても何もないので、2-Bの教室から出て、下駄箱に向かう。

 いつも通り、気づいたら横に葵がいる。


「澪、一緒に帰ろう!」

「お前テンション高すぎでしょ。そんな成績が良かったのか」

「天才の澪は悪かったみたいだけど、私はーいつもとは違って2桁ですし?今日は御馳走かなぁって考えたらそりゃあテンション上がるよ!」

「2桁に落ちたんだよね、あと天才じゃないって何度言ったらわかってくれるんだ」

「天才に天才といって何が悪い」


『僕は天才じゃない!』『認めたらどうよ』という押し問答をしながら学校を後にした。


「そんじゃ、30分後にLINEするからゲームしような」

「わかった」


 ゲームの約束をして、葵と別れる。

 俺はどうやって親に成績の言い訳をしようか考えながら家に帰った。


 ***


 玄関の扉を開けて、ただいまーと言いながら家に入る。

 おかえり、と返事をして母が顔を出す。そして母は俺の顔を見たまま右手を前に出した。

 成績表を出せということらしい。

 バックを下ろして中から成績表を取り出して、謝罪と主に母に渡す。


 母は渡された成績表に目を落とし、はぁと溜め息をついて引っ込んでいった。


 自室に入り制服から部屋着に着替え、ベッドに身を預け、成績表を思い出す。

 総合順位298人中13位……。

 何が悪かったんだろうなぁ。1日4時間ほど勉強してたんだけどな。

 集中力でも落ちたかな――


 ――ブーブー。


 スマホが震えた。なんかの通知のようだ。


 LINE 16:22 葵 「悪い、今日ゲームできなくなったわ。」


 通知をタップして『わかった。また今度やろうな』と返事を返しておく。

 間髪入れずに『ごめん、ありがとう』と帰ってきた。


 予定なくなった……。どうしようか、ゲームする相手……。

 ん-、あの人とゲームするかな。スマホをベッドに投げて、パソコンの椅子に座る。

 パソコンを立ち上げて岡田さんにFPSをやらないか、と連絡を送る。

 普段ならすぐ返事が来るけど、今日は来ない。

(岡田さん、寝てんのかな?)


 しょうがない。一人でFPSの練習でもしますか。

 練習マップに接続して、ダミーに銃弾を撃ち込む……。

 1時間ほど一人で練習をしたあたりで、Discordで通話がかかってきた。


「お疲れー、つばめっち」

「あー岡田さんっすか。お疲れ様っすー」

「いやーホントに夜勤疲れちゃって、こんな時間まで寝ちゃってたわ」

「夜勤お疲れ様っす。良ければFPSやりません?」

「あー全然いいよー。やろやろ」


「いやー、聞いてくださいよ岡田さーん」

「ちょっと待ってな、今ゲーム立ち上げるから。……んで、どした」

「期末考査が終わったって言ったじゃないすか。今日成績表帰ってきたんですけど、いつもより悪くてさ」

「どんくらいなの?」

「それが、13位まで落ちたんだよね。いっつも1桁なのに」

「たっか!全然すごいじゃん。俺なんか中学の時の成績なんて後ろから数えたほうが早かったぞ」

「岡田さんそこまで低かったのか……。でも2桁取るなんて初めてだしさ、怒られるかも」

「十分成績いいんだから、気にしなくていいと思うぜ。……よし、ゲーム立ち上がったぞ」


 そういって僕のパーティーに参加してくる岡田さん。プレイヤー名は「ツードラ」だ。

 岡田さんの下の名前が龍二で、ドラゴン(龍)がツー(二)を少し入れ替えて「ツードラゴン」で長いから「ツードラ」になったらしい。

 でも俺は「岡田さん」と呼んでいるが。

 そして俺のハンドルネームは「つばめ」だ。

 苗字が椿つばきなので、1文字変えてつばめだ。深い理由はない。


 今からやるゲームはバトルロワイヤルだ。1試合60人で行われる。

 準備完了のボタンを押して出撃する。


「やりますかー。」

「とりあえず10回チャンピオン取ろうな、つばめっち」

「10回チャンピオンか、チート買ってくる」


 そんな悪いものに手を染めるな、と言いながら大声で笑う。

 その試合は初動で接敵し、無事に死亡した。


 ***


「これが終わったら一回休憩しようぜ、つばめっち」

「そうっすね。休みますか」

「つばめ!敵!敵いるぞ」

「え?うおっ!?マジじゃん、早く言えって!」


 不意に出てきた敵になすすべなく俺は倒された。はやく言ってくれよー。

 その敵を岡田さんがあっという間に返り討ちにして何とか生存。

 蘇生してもらって、残り3部隊。1部隊2人だから自分たち含め多くても6人しかいない。

 ――バン!バンバン!

 近くで銃声が響いた。岡田さんも俺も撃ってないから、敵同士でぶつかり合ったらしい。

 ――□□□□□□□□ダウン

 ――□□□□□□□□ダウン

 キルログも出て、お互いに一人ダウンしたらしい。


「南の方向だ、行くぞ!」

「おっけー!」


 岡田さんの掛け声とともに急いで戦場に向かって走る。

 ――残り2部隊。

 なんとか相手が回復する前に間に合った。


「つばめっち、決めていいぞ」

「任せろ!」


 そのまま手に持ってるスナイパーで敵の頭を抜いて、今日初のチャンピオン!


「ナイスーつばめ」

「岡田さんこそナイス!」


 達成感をかみしめながら背もたれに寄り掛かる。

 画面にはリザルトが表示されている。

 ――つばめ 2019ダメージ 8キル 3アシスト 10ノックダウン

 ――ツードラ 1228ダメージ 3キル 2アシスト 5ノックダウン

 時計に目をやると、18:02を示している。軽く1時間半くらいやっていたらしい。


「お、2000ダメージ取れてたわ」

「おめでとう。まぁ、スナイパーで横からチクチクとダメージ稼いでるからやろ」

「まあショットガン使えないんで、代わりに安全圏から嫌がらせを」

「性格わりぃーwww」

「うるさいなぁ。まあ、チャンピオン取ったし、休憩しますか」

「だな、麦茶取ってくるわ」

「はーい」


 岡田さんが離席したので、俺はヘッドセットを外しトイレに向かおうと立ち上がった。


「澪ー。話があるんだけど。入るわよ」


 そういって部屋に入ってくる母親。

 多分話とは成績のことだろう。


「澪?なんでこんなに成績が落ちたの?」

「あぁ、わからん。いつも通り頑張ったけど」

「いつも通りって……。それだったら成績が落ちるはずないでしょうが!」

「本当にいつも通り勉強した――」

「――うるさい!次も5位以下取ったら学校辞めさせるから!」

「はぁ!?たかが13位取っただけで――」


 ――パチン!と乾いた音が部屋に響く。少し遅れて左頬が熱を持つ。ビンタされたらしい。


「痛って!何するんだよ」

「あんた、誰のおかげで私立に通えてると思ってる!黙っていうこと聞きなさい!」

「別に今回たまたま悪かっただけでそこまで怒ることないだろ」

「口答えするな!」


 その怒号と共に今度は右の頬を殴られる。

 殴られたときに口の中を切ったらしい。血の味がしてきた。

 そしてキレてた俺の心は急激に冷めた。

(言い返しても無駄だわ。これ)

 言い返したらまた暴力を振られると思い、何も反論しなかった。


 そのあとも何かわめいていたが、詳しくは覚えてない。


 あ、ゲーム。とそのことを思い出してヘッドセットを付ける。


「あー。あー。岡田さん戻ったよー」

「あ、おかえりー。……どうする?まだ続けるか?」

「んー夕食ができるまではやろうかな」

「おっけー」


 30分くらいゲームを続けたあたりで母からご飯。と呼ばれた。


「岡田さーん。わるい、夕飯呼ばれたわ」

「おっけー、お疲れさまー」


 通話から退出し、ヘッドセットを外す。

 そのままリビングに向かう。


「いただきます」

「……」


 配膳が済んでいる食卓に座り、夕飯を食べ始める。

 母は何もしゃべらない。俺もしゃべらない。

 そりゃそうだろう。母は俺の成績に失望し、俺は母に殴られたのだから。

 気まずいったらありゃしない。


「あ、澪。問題集注文したから、やりなさい。」

「……」

「やりなさい。わかったわね」

「……はい」


 やると言わされてしまった。

 別に13位もいい順位じゃないか?なんでそこまで怒るのか。

 まぁ、私立に通わせてもらってる以上いい成績を取らなきゃいけないのはわかってるけど……。

 そんなことを考えてるうちに食べ終えてしまった。


「ご馳走様でした」

「部屋に行く前にお風呂入っちゃって」

「はい」


 そのまま脱衣所に向かい、着ていた部屋着を脱ぐ。

 下着も脱いで、全裸になったところで鏡を見る。

 腹筋はうっすら線が入ってる程度。多分余分な肉はないだろう。


 浴室に入りまずは体を流す。そのまま頭からお湯を浴びて、頭を洗う。

 頭を流して体を洗う。丁寧に洗っていく。


 綺麗になった状態で、湯船につかる。

 溜息をつきながら、湯船の壁に寄り掛かる。


(右頬、痣にならないといいけど)


 と思いながら少し前のことを思い出していた。

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