第29話


俺は目覚めると同時に伸びをする

そして、隣で寝ているセツナを起こした


「今日も学校だなぁ」

「面倒」

「ってか、部屋別にする話どこなったんだっけ?」


セツナの顔にあまりにもわかりやすく忘れてたと書かれている


「あっ、あぁー結局兄さんと同じ部屋にすることになったじゃん」

「そうだっけ?」

「うんうん。けいちゃんもそう言ってるし」


セツナは携帯の妖精にけいちゃんという名前をつけた


安直すぎるだろう

そう思って、アンシスブリリアントぷんぷん丸という素晴らしい名前をつけてやろうとしたら、軽蔑の目を向けられた


ちょっとふざけただけじゃん


「あっそういえば、アドレス交換してなかったな」


どうやるかわからないけど

俺はプレゼントボックスを2度クリックして妖精を出す


「けいちゃん。兄さんのアンシスとアドレス交換して」


え、こいつの名前アンシスになったの?

この妖精不満げだけど


・・・まぁいっか


「えーと、妖精同士を繋げるんだよね」


俺はアンシスをつまみ上げて、セツナの妖精にくっつける

すると、少し時間が経ってから2匹の妖精が同時に手を挙げる


「わっ、あー完了したみたい」


どうなってんだろうな


「じゃあ、兄さんに電話」


すると、アンシスが暴れ出し、俺をポカポカと叩いてくる

えぇ、電話が来るたび暴れるの?


俺がアンシスの頭をちゃんと叩くと姿がセツナに変わった

サイズはそのままだがセツナが妖精になったみたいだ


「兄さん聞こえる?」


セツナがパタパタと手を振ると、アンシスセツナもその動きに連動してパタパタと手を振る


「おぉ、すごい」

「そっちには俺が映ってんのか?」

「うん」


なんか照れくさいような気もするけど

この効果オフにできるのかな


別に面白いからオンのままでもいいけど


後でシズカに聞いてみよ

熟読してたし、わかるだろ


俺達は制服に着替えて、朝食を取ってから

時間が余ったのでボケーとエントランスのソファーで寛いでいた


「他のみんなが忙しい中、自分たちだけだらける罪悪感と言ったら」

「兄さん。あれは仕方ないよ。また義賊が出たそうですから、御三家の中で武を司るホロ家は引っ張りだこだから」


ははは、セツナも頭が良くなってきたじゃないか

もうすぐ俺を越すぞ


セツナの頭をぐりぐりと撫でてあげる


「兄さん。子供扱いしないで」


と言いつつも、手を振り払わないあたり内心嬉しがってるのだろうと

親バカ精神でぐりぐりと頭を撫で続ける


「頭セットし直さなきゃいけなくなるから」


俺はそこでようやく撫でるのをやめる

女子の髪は神にも等しい


そういう名言を聞いたことがある

元メンバーのクーシャから


クーシャの髪のセットの時間がかかりすぎることを一度注意したことがある


そしたら、


例えぇ〜リーダーでもぉ〜髪を崩したらぁ〜ぶっ殺しますよぉ〜


とのこと


でも、5時間はかけすぎだと思う


ちなみに魔獣に崩されたりしたら、本当に暴れる

そいつら全滅させても気はすまなくて

片っ端から討伐しに行った


本音を言うとかなり面倒くさ・・・


「お待たせしました」


シズカが来たようだ

この話はもうこれ以上やめよう


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


シズカは、いつも通りセツナを送っていき

一人エントランスで待つ


欠伸を噛み殺し、座っているソファーで寝ることを我慢する


座学までの辛抱

俺はそれだけを胸に目をたぎらせる


「あの。若」

「誰」

「ひっ、ユリナで御座います」


血走った目が怖かったのか

その従業員は俺に怯える


あー。この前の従業員なのに舐めてた態度取ってた

えーと。ギャリナだっけ?

あだ名はギャリーだな


え?シズカはどうなんだって?

あいつは側近だし、幼馴染でも一応はあるから許されるだけで見ず知らずの奴に舐めた態度を取られることは違う


別に偉ぶりたいというわけではないが

裏でクソ親父にだけは超従順というのが容易に見えるため、さらにムカッとくる


「わ、若は、どうして私ではなく。シズカを側近に取ったのですか?」

「え?なんでお前を選ぶんだ?」

「本来、側近は私がなるはずでした。年も同じで。シズカのようにどこか抜けているところもなく完璧なはずです」


シズカは方向音痴で、俺に過保護なところはあるけれど抜けてはいない・・・と思う


それじゃなきゃ、俺が悩んでるときにトイレ行きたいのですか?なんて聞かない・・・と思う


ちょっと抜けてるかもしれない


まぁ、それは置いておいて

君だ、ギャリー


その服の着崩しで抜けてないなどぬかしおる


しかも、自分で自分を完璧と言うのか

その時点で側近は向いてなさそうだけどな


側近は一番主人の秘密を抱えるもの

裏で支えるもの

理不尽な要求でも喜んで受け入れるもの


口が軽そうで、自己顕示欲が高くて、不満を上に言う

そんな奴では到底務まらない


まぁ、敢えてあのクソ親父はそういう選抜をしたんだろうけどな


クソ親父には反抗するくらいが生きてく上で丁度いい


まぁ、そういう口実は一応立てるが


完全な俺の我儘である

ただのシズカの腕に一目惚れしただけだ


こいつだって将来設計も側近込みでしていたんだろう

それが俺の我儘で覆された

哀れには思うが、後悔はこの先絶対にしないだろう


俺は大きな欠伸を噛み締めて、寝っ転がる


せめて自分が苦しまないように俺を陰で罵るといいさ


俺はそれに怒ったりはしない

俺に責任があるからな


その従業員は、小さく舌打ちして帰ってしまう


「はぁ、何があったんですか」


シズカが帰ってきた


「まぁちょっとな。昔の自分の尻拭いってところだ。俺が陰口叩かれてもあいつのことあまり叱らないであげてくれ」

「いいえ。然るべき処罰は受けさせますよ。若に嫉妬など従業員として失格です。友とはいえ容赦はしません」


すまん。従業員えーと、・・・名前忘れた

クビにならないことを祈っとくよ


「まぁ、いっか。行こうぜ」

「はい」


俺らは転移門を潜り、学校へとつく



昨日、義賊が侵入したのが原因か

警備が厳重になっていたが

何事もなく教室につき

扉を開けると


クラスメイトの視線が集まる

昨日の貴族ボコボコ事件が原因だろうか


義賊追い返し事件は広まっていないはずだし

そもそも、あんなことがあったんだから俺だけ休みでも良くない?


俺は、席につき一眠りしようとすると

ミドリが話しかけてきた


「昨日、義賊を撃退したって話。本当?」


あぁ、そっち

って広まってるやん


学校の信頼に関わるんじゃないの?

そう言うの


まぁ流石と言うべきか

花の高校生、噂に敏感だこと


「あっ、私、一昨日銃を教えてもらったミドリね」


流石に覚えてるよ

シズカが超笑顔でキレてたし


「本当ですよ」


シズカが代わりに応える

すると、ミドリは音はなってないがわっと笑顔になって喜び

自分のグループへと帰っていった


「本当に、何で私を頼ってくれないのでしょうね。そんなに頼らなかったでしょうか。従者は私なのに流すような真似をして」


シズカがぶつぶつと文句を言っていたが、俺は寝たふりをしようと身体を机に落としていくと


チャイムが鳴る


すると、ガラガラとドアが開き校長が入ってくる


「今日は例の件のため、午前授業だ。ヒラス先生が授業を始める前にテストを返す。ほら番号順に取りに来い」


ヒラス先生とは、このクラスの担任でおっとりした感じの先生だ


何気に名前は初登場だな


まぁ、現時点で担任であるはずのヒラス先生よりこの人の方がこのクラスに来ているってのは世にも奇妙な話だ


俺はテストを取りにいくと、そこには満点のテストがあった


まぁ脳手術で記憶力の方も前回いじられてたから当然だな


校長がワナワナと震えながらテストを渡すのに笑いを堪えながら受け取り

席に戻る


「凄いですね。授業も勉強もしてないのに」


満点の解答を持ったシズカが俺に言ってくる


「お前も仕事やりながらのそれは凄いだろう」

「いえ、私は授業中に覚えましたので」


うちのシズカは脳手術受けてないのに何でこんなスペック高いの?


「シズカ。お前は授業免除だ。校長室に来い。ついでにマサトも」


シズカ。次回テスト危機

そして、シズカのノートを見れない俺も危機


主人より従者の方が需要あるってよ

俺はついでだとか


まぁ、冗談は置いておいて


ここでは話せないかつ至急の用事だろう

大体検討はつくが


「わかった」


俺達はそう言って校長についていき、教室を出ると同時に担任がすれ違いざま入ってくる


あぁ、俺の睡眠時間


「昨日、シズカから聞いたと思うが。義賊の予告が早まった」

「え?」

「言いましたよ」


え?あーー。なんか妖精ぷんぷん丸買ったときになんかそんな話してたな


結構ショック受けてたけど、俺も俺で興味持って色々試してたから、めちゃくちゃ聞き流した覚えがある


「すまん。全く聞いてなかった」

「はぁ、お前は変わらないな。変わったのは腕だけか?」


俺が悪いんだけどさ

今の校長と会ってからは未来含めて12年くらい経ってるはず


結構な修羅場も潜ってきた


「人って変わらない生き物だから」

「自分で言うな。自分で。それでだな、今夜義賊対策にお前らも来てくれないか?」


正直に言おう、面倒臭い


「断腸、いや命を落とすレベルで悩ましいがシズカなら貸すぞ?」

「前置き嘘ですよね」


嘘ではないんだけどな?

シズカがいない間、ちょっとやりたいことあるから

スケベェ フライの餌を買いに行きたいし、せっかく会えたカリナの件もどうにかしたい


「俺は暇じゃないんだ」

「昨日、寝るのいつもより早かったですけどね」


うるさい

バラすんじゃない 


「シズカを借りれるなら両手を上げて喜ぶのだが、いいのか?お前生きていけるのか?」


馬鹿にするな

と言いたいけど、声を大にしていえない


タイムリープ前関連のこと以外は全部、シズカに任せてるし


「ま、まぁ?なんとか?」

「目を逸らすな。はぁ、シズカは借りれないか」

「若、今日は予定がなかったはずですが」


校長が校長室を開けると同時に睨みを効かせてくる


「まぁ、座れ。義賊対策の案をお前らにも出してもらいたいからな」


俺はソファーに座るがシズカは立ったままお茶を取りに行った校長を待つ


「シズカ、座れ。校長にも言われたろ?」

「ですが、・・・わかりました」


シズカが隣に座る


すると、そこで校長が茶を持ってきて配る


「お前らは本当に昔から仲がいいよな。正直言って羨ましいぞ。うちのなんか愛想のかけらもない」


ここに校長の従者がいない辺り、本当に忙しいんだろう

そういや、ケンタロウもいなかったな

なんかいい案でも出さなきゃしばき倒されそうだ


「さっきも言った通り、シズカを貸す」

「ほう?」

「使い潰したら、マジで殺しに行くからな」


俺は、殺気もこめてそう言い放つ

校長は冷や汗を垂らしながら、口を開く


「わかっている。それで?なぜそう判断したのか教えてくれ」


今回は、魔術の存在が起こしたイレギュラー

まだ予測の域を脱しない


サボ・・・国を守るため俺はスラム街で集めた証言を元に言う


「まずは、予告。御三家のお宝を頂戴するとは言っているが絶対にお前やケンタロウの家にとは言っていない」

「だが、盗みに入るとしたら家以外あり得ないと思うが?」


まず、そこからか

と言うような落胆した顔で校長が俺を見る


まぁ、聞けって

俺だってタイムリープ前に起こらなかったことで少しは動揺してるし、修正もしようとはしてるんだ


完全に他人事ではないからな


「予告なしに盗みに入るのが大抵なんだろ?じゃあ、なぜ今回は予告を出した?」

「何が言いたい」


くだらない事

子供の妄想だったらただじゃおかないと言っているのか

校長の持つコップに亀裂が入る


「これだけ大々的に警備を増やしてあんたん家に入ろうと思う奴がいるか?それに今はうちらの警備は薄くなっている」


うちのクソ親父は意気揚々とそう動かしているように見えるが

真偽は確かだが、義賊たちは手に入ったお金の1/5しかばら撒いていない


逆を言えば4/5あの義賊達の元に入っている

義賊と言えば聞こえはいいが、ただの盗人だ


そんな奴らが金を頂戴する

ではなく、お宝を頂戴すると言ったのだ


「つまり、お前の家に入ると?」

「そうかもしれないがあいつらは御三家の内、一つの家に入るなんて一言も言ってない。しかも、盗むのが金ではなく武力だとしたら?うちにはセキュリティの厳重な第五塔だけじゃなくても、従業員用の武器庫が第一〜四塔にある」


校長ははっと何かに気がつき、立ち上がり机を叩く


「武力を司る貴様の家にある戦闘用機械を盗みに入ってくるとでも言いたいのか!?」

「まぁ、あいつらだって金は欲しいだろうから、それを使ってお前ん家に入って強盗ってところがオチじゃないか?」


校長が拳を握りしめて、テーブルを叩く


「戦闘用機械を使った大規模襲撃とでも言いたいのか!なぜもっと早く言わん」


ここまで言ったらなんだが

証拠がないから

ただの推察に過ぎないし、殆どの確率で起こらないだろう


あいつらがそんなに頭良いようには見えなかったからな


「貴様の家にも人員を回す。少し待て。ケンタロウに今連絡を取る」


まだ、15歳のガキにしかもケンタロウに現場を任せてるの?

確かに有能かもしれないけど、周りのやつがついていくかと言われれば、悩ましい


まぁ権力が有れば誰にでも上につけるか


などと思いながら、携帯板を出した校長を止める


「相手は臨機応変に立ち回るだろう。気づいてしまったことを悟らせれば、何を起こしてくるか予想がつかない。今、把握しているだけで対応して後手に回させる。そのために、シズカを預けるんだ」


俺がそういうと、シズカは目を閉じて口を刺してくる


「そのために、昨日携帯ショップでそれを買ったのですか」


いや、この視界の端で踊る妖精は全くの偶然だが

そういうことにしておこう


ってか、義賊の来る日が早まったこと初めて知ったって言っただろ


俺はニヤリと笑う


「怪しまれないために、俺は自宅にいるのが自然で最適だ。侵入してきたらすぐに連絡する。」


俺はそう言って校長室を跡にした


そして


午前の授業を途中から受けて、そのまま爆睡した

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