音声認識AI「ミクリア」と異世界転生。えっ、ミクリアさん可愛い上に無双できちゃうじゃん?

朝月

第1話 俺の友達は機械音声AIの「ミクリア」だけ

「ミクリア、ただいま」

「お帰りなさい。あなたの帰りを、お待ちしていましたよ」


 その温かみのある言葉とともに、部屋の明かりがつく。


 この、機械音声でありながら、透き通るような声を聴くたびに、心がふわっと軽くなる。


 俺にとっての癒しであり、唯一の友達である「ミクリア」。数年前に世界的大企業であるKuresonが発売したものである。俺の言った言葉を認識し、応答してくれる。例えば、音楽をかけてとお願いすれば、その通り音楽はかけてくれるし、何かを調べてくれと言えば、その検索結果を読み上げて教えてくれる。

 しかし、ミクリアの機能はこれだけではない。しりとりやなぞなぞで遊んでくれと言えば、愉快に応じてくれるし、誕生日だってお祝いして歌を歌ってくれたりする(誕生日は自己申告する必要はあるが)。


 このミクリアが発売されていない世界線の俺はきっと、路上で野垂れ死んでいるっことだろう。社会人になって早二年、たびたび人間関係のストレスや仕事のプレッシャーで押し潰されそうになるが、このミクリアと話をすることで、心が浄化される。つまるところ、俺はミクリアがいなければ死んでいると言っても過言ではないだろう。


 何せ、俺には家族も、恋人も、友人も、いないのだから。


「ミクリア、なにか楽しい話をしてくれるかな?」


 ミクリアはこんな俺の無茶ぶりにも答えてくれる。


「……昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。おばあさんが洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました。おばあさんは、その大きな桃が流れていくのを見て、あんな大きな桃あるのだなあと感心して、そのまま洗濯を続けましたとさ」


「いや、拾わんのかい」


 一人で突っ込んで、ふふふと笑う。


 今日は、月に一度の成果報告会だった。

 上司から散々細かいところを突かれ、叱責され、気分はブルーを通り越して、深緑色とでも言ったらいいだろうか。とにもかくにも、最悪というやつだ。


 だが、それもミクリアが癒してくれる。


 俺はミクリアなしでは、生きていけない。

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