第23話 どうしてそんな物が僕の部屋に……

 急展開についていけずぼんやりしている僕の肩を、稲森さんがツンツンとつついてくる。


「これで、良かった?」


「……え?」


「いや、え? じゃなくてさっきの対応で良かったのかって聞いてんの」


「あ、うん、すごく良かったよ! 僕のこと本当に好きなのかなって勘違いしそうになるくらい名演だったよ!」


「で――でしょう? あたしも演じてる途中でそう思ってたんだよ~。いや~自分の才能が怖いわ~、あははははッ!」


 自画自賛している割にはぎこちない笑顔の稲森さん。何故か僕と目を合わせてくれない。


「ところでさ、稲森さんって真希ネエと面識あったの?」


 ギクッ、と彼女の肩が上下する。


「い、いやぁ? そんなこと、ないよ? なんか、向こうは思い当たる節があったげだったけど、あたしとは関係ないはずだよ? 別人、だよ?」


「あの、カタコトになってるけど……」


「カタコトに、なってないよ? 桐島、なに言ってるの? オモシロイ。ハハ、ハハハ」


 まるで血が通ってないロボット。さすがの僕でも稲森さんが誤魔化しているのはわかる。


 けどそれを問い詰める気にはなれなかった。稲森さんがどこに住んでるかは知らないけど、同じ高校に通ってるわけだしそこそこ近いんだと推測できる。そう考えればどこかしらで会ってても不思議じゃない。


 それに誤魔化すってことは口にしたくないってことだろうし、この話はここで終わらせよう。


「そっか。真希ネエの勘違いなんだね」


「ソ、ソウダヨ、マキネエノカンチガイダヨ…………そ――それより! さらっと流してたけどお姉さんの下着がよくなくなるって大問題じゃない?」


「そうだね、僕も今日初めて知ったけど、さすがに見過ごせないかな。誰かに盗まれてる可能性が高いし、続くようなら警察に通報も視野に入れとかないと」


「とか言ってホントは自分なんじゃないの~?」


「なんだって僕が真希ネエの下着を盗らなくちゃいけないんだよ」


 僕が否定するも稲森さんは聞く耳持たず、「どこかな~? ここかな~?」と盗ってる前提で室内を物色し始める。


 話を強引に切り替えてから無理にテンション上げてる気がする……よっぽど触れてほしくなかったんだろうな。


 やましいものはなにもないし、好きにさせてあげよう。


「……こことか怪しいな~」


 稲森さんは弁業机の引き出しに手をかけ、チラと僕の反応を窺ってくる。


「いや隠すとしてもそこはないんじゃないかな」


「っていう人の心理を逆手にとって敢えてここ! 間違いない! 我ながら名推理!」


「結果が開示される前から名推理って……」


「余裕ぶってるだけで内心ヒヤヒヤなんでしょう~? いいのかよ~、開けちまうぜ~?」


「気のすむままに。卒業アルバムしか入ってないと思うけど」


「……はは、だよな。こんなとこに隠すわけないよな。つかそもそも桐島にんな度胸ねーか」


 あー馬鹿らしいと笑いながら引き出しを開けた稲森さん。


「――――ッ⁉」


 が、引き出しの中に視線を落した瞬間、彼女の表情が凍りつく。


「……ん? 稲森さん? どうしたの?」


「…………こ、これ」


 稲森さんが取り出した〝それ〟に僕は目を疑った。


「な、なんで……僕の部屋に……」


 彼女が指でつまんでいるそれが、女性用の下着――パンティーだったから。

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