Last order

紀伊航大

第1話 阿部愛一郎と宮本雪

「俺」が「ぼく」だった頃の話。町では何十年ぶりかの積雪が観測された。いつもの景色は銀色に染め上げられ、見知らぬ土地へと変貌している。一面雪景色に心躍らせているぼくの目の前には小さな肩を落とし、とぼとぼ歩く彼女の姿が。ぼくは繋いでいた父さんの手を強引に振り切って走り出した。それは隣の家に住む宮本雪だった。


生まれつき病弱な彼女は名の通り、雪のような白い肌がトレードマークのおとなしい少女だった。しかし、今日は様子が違う。モチモチの大福みたいなほっぺたは赤く染まり、息はあがっている。激しい運動はドクターストップがかかっているはずなのに。


彼女はぼくの姿を視界の片隅に捉えるとちょこまかと足を動かして駆け寄ってきた。小さな手で力一杯ぼくの肩を掴む。震える彼女は僕の耳元で何かをつぶやく。


そのときぼくは初めて、彼女の命の火が灯っている奇跡を目の当たりにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る