青空の約束

三上クコ

夏休みの始まり

 通学帽が意味を成さないほど強い日差しの下、大音量で鳴くセミに急かされながら快人は家に走って帰り、勢いよくドアを開けた。


「ただいま!」


 おかえり、と言う母の声と同時に靴を玄関に脱ぎ捨てた。本当はこのまま自分の部屋に向かいたいが、靴をきれいに並べないと母がうるさい。走り出したい気持ちをぐっと我慢して、飛び散った靴を掴んだ。またゲームを取り上げられたら堪ったもんじゃない。快人は怒られない程度に靴を揃えてから小走りで自分の部屋に向かった。





 自分の部屋に着くなり、快人は背負っていた重たいランドセルをベッドに投げ捨てた。どすん! とかなり重たい音がしたのも気にせず、学習机に向かう。ここからが楽しい時間だ。体の奥から湧き上がる高揚感を落ち着けるために深呼吸をして、引き出しから四角いクッキー缶、”てるてる坊主セット”を取り出した。

 ”てるてる坊主セット”は快人の夏休みには欠かせないものだ。中には、黒マジックとたこ紐、そして図工の時間に使った余りの紐、お菓子の包装についてきたリボン、母が使わなくなった刺繡糸など、快人がコツコツ集めてきた色とりどりの紐やリボンが大量に入っている。

 よし、と気合を入れてから、快人はティッシュを3枚引き抜いた。そのうち2枚を丸め、手のひらを使って球を作る。きれいに丸まったら、もう1枚のティッシュで球を包み、”頭”を作る。スカートの部分が綺麗に広がるように”頭”の位置を調節したら、”頭”の真下をたこ紐で留め、”首”を作る。この時、窓に引っかけられるように大きな輪っかを作ることを忘れてはいけない。次は快人が一番苦手な作業、リボン結びだ。”首”に赤い紐(友達から貰ったつやつやした紐)でリボンを作る。左右で紐の長さや輪の大きさが違ったり、リボンが縦になったりしないように、何度も何度も結び直す。納得のいく出来になったら、マジックで目と口を描いて、完成。

 できたばかりのてるてる坊主を持ち上げて回し、逆さまにひっくり返して、快人は大きくうなずいた。


 今日から夏休みだ!

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