お客様名『山本 勲』その参~「PVとは?」~

「ご、ゴミクズ……って」

「仕方ないですね。調べたところ山本様は自殺しているようですし。自殺は大幅な減点となります」

「大幅ってどれくらいなんですか?」

「自殺の場合は、所持PVから9割減点ですね。元は500万PV程でしょうか。それでも随分少ないですね」

「まぁ、39歳ですし。大した生き方もしてなかったからなぁ」


 世望はマウスのホイールボタンをぐりぐりとしながら、「そうですねぇ。コレと言って退屈な人生ですね。社会貢献もしてなければ、自堕落な生活……。良い所があるとすれば山本様は正直者ですね。悪く言えば嘘が下手……。それを加味しても、こんなモノでしょう」と笑顔で説明した。


 爽やかな甘いマスクで、毒舌を吐かれるとなぜか無性に腹が立つ。


「アンタ、俺をお客様って言ってた割には、随分と酷い事を言うんだな」

「申し訳御座いません。いずれ明るみになる事ですので、ここはあえて、しっかりお伝えするべきかと」


 そう言うと、世望は俺に深く頭を下げる。


「いや、別に良いよ。で、そのPVを調べてどうするんですか?」

「山本様のPV状況から、ご提案できる異世界を選ぶ基準を知らなくてはならないんです」

「好きに選べるんじゃないんですね」


 すると、横から肌島が近寄り前屈みになった。

 顔よりも、その豊満な谷間に視線が吸い寄せられる。


「一応ビジネスですので、契約が成立した場合の仲介手数料と、山本様が毎月の世賃料よちんりょうを支払える事も考慮しなければならないのですの」

「マジで不動産屋みたいですね」


「その通りです」と世望が言った。


 そこで、俺はふと気付いた。

 もし仮に、俺が異世界に行ったとして、毎月の賃料……つまり世賃料を支払うと言うが、そのPVはどうすれば稼げるのか?

 世賃が幾らかは知らないが、PVを稼がなければ、いずれは滞納だ。


 俺はその疑問ぶつけた。


「そのPVはこの先増えるんですか? 毎月支払うとかいずれ滞納になってしまいますよ」


 世望が答える。


「ご心配なく。先ほども申し上げました通り、PVとは、パーソナルバリュー。つまり貴方の価値です。異世界にて貴方の価値を高めれば、それに応じてPVも加算されます。まぁ、その逆も然りですが」

「価値を高めるって、どうすれば?」


「それは神のみぞ知るです」と、世望は指をズバリと突き出し答えた。


 変わって肌島が口を開く。

 俺は胸を見る。


「PVの増え方は、その世界によって様々なんです。ある程度の傾向は私共の方でも分かりますが、厳密にはニーズは移ろいますし」

「ニーズ?」

「例えば、山本様が勇ましくカッコいい生き方をすればPVが上がる事もあれば、スローライフで上がる事もあります。エッチな事や、グロテスクな事など」

「それって、なんか動画の再生数とか、小説の閲覧数みたいですね」


「動画ぁー」「小説ぅー」とチルとラリが俺の後ろで走り回っている。


 パチパチと世望がキーボードを叩きながら口を開いた。


「そうですね。良い所に気が付きましたね。人生とは、動画や、特に小説と同じです。どちらも主人公の生き様ですから。山本様もご自身の生き様を神様達に見て貰う事を意識していれば、おのずとPVが稼げるようになるでしょう」

「生き様って、俺、もう死んでるんですが……」

「私が言う"生き様"とは、魂の事です。肉体を離れても魂として山本様は生きていますから」

「はぁ……?」


 坦々と話しが進んでいくが、中々に理解が追いつかない。

 俺は一旦腕を組んで、情報を整理した。


 つまり、この不動産屋で言う『異世界』とは現世での『賃貸物件』と同じで、自分が住みたい異世界を選ぶと、仲介手数料と家賃……つまり世賃が毎月必要になる。

 そして、その世賃は俺のパーソナルバリュ―であるPVで支払われ、そのPVを稼ぐ為には、俺の生き様を神様達? に気に入られるように見せていかないとイケないと言う事だ。


 んー。ややこしくて頭が痛い。……死んでいるのに。

 どうする? 今ならまだ店を出る事ができる。

 だが、出てどうする? 彼らのように俺も行列に戻れずに恨めしい表情で、オブジェのように立っているのか? 

 その先に何がある?

 可能性が無いのなら、この店に人生を賭けるほうがまだマシだ。……いや、死んでいるから人生とは言わないな。ややこしい。


 俺の険しい表情を察したのか、世望はニコリと微笑みながら、肌島に目線を送った。

 すると、なんと肌島が豊満なバストを両腕で挟み、それを世望の顔に近づけた。


「世望さまぁ、取って下さるぅ?」と胸を差し出し、愛らしい表情を送るが、世望は表情一つ変えずに「自分で取って下さい」と突っぱねる。


「いけずぅ」と言い、肌島は口を尖らせると、おもむろに胸の谷間に手を突っ込んだ。


 何をするのか? エロい……エロ過ぎる。

 そして、手を出すと、数枚の紙が出てきた。


「4次元パイパイ」「4次元パイパイ」とチルとラリが、キャッキャと笑う。


「こら、その呼び方しちゃダメよ」と肌島が注意する。



 肌島から紙を受け取った世望は「良い異世界がありましたよ」とニコリと笑った。


 世望にそう言われ、俺は紙に目をやった。

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