第4話 家庭科部員全員集合・・・・・・?

 翌日。僕ら──家庭科部員は家庭科室に招集されていた。


「じゃあ、全員揃ったところで自己紹介から。知ってると思うけど、私が家庭科部部長の3年6組田中花子。よろしくお願いします。」


 パチパチ、とささやかな拍手が教室内に響く。


「私は副部長の3年5組河合瑠奈です。よろしくお願いします。」


 僕の左隣に座っている子だ。長い髪を下の方で二つに縛っている。田中の底抜けに明るい声と比べると、断然落ち着いている。大和撫子を思わせる子だった。


「会計の3年5組早瀬優希。よろしく。」


 続いて自己紹介をしたのは向かいに座っていた子だった。メガネをかけ、ショートヘアの彼女は始終俯きがちだった。人と話すのが苦手な子なのかもしれない。今も声が少々強張っていた。


 さて。


「6組に転校してきた新庄奏多です。よろしくお願いします。」


 ぺこり、とお辞儀をすると、話は聞いてるよ〜」と左隣から声がした。ええと・・・・・・そうそう河合さん。


「はーちゃんが『家庭科部の新兵器捕まえた』って。」


「はは、新兵器ね。」


 田中、余計なことは言わないでほしかった。あまり期待をされても困る。


「まあ、そういうことだからよろしく、新庄くん。じゃあこの先は早速この先の家庭科部について、そして2日後にある新入生歓迎会についての話をするね。


今現在家庭科部に在籍しているのはここにいる4人だけ。」


 4人、ね。なんとなく予想はしていたけれど、ユーレー部員もいないのか。それはつまり・・・・・・。


「今年一年生が1人でも入部してくれないと、この部はなくなる。」


 まあ、そうだろうね。


「1人でいいの?部員何人集めないと廃部、なんてことにはならないの?」


 河合さんの疑問に田中はひとつうなずく。


「それはないみたい。ほら、中学校って義務教育だし、流石にそういうのはないんじゃないかな。」


 そういえば、前の学校では水泳や体操など、学校では練習できない競技の大会に学校の名前で出るために「特設部」という名目で部が設立されていた。その中には1人だったところもあったはず。


「去年は入部希望者がゼロだったから今年頑張らなくちゃいけないの。で、家庭科部をアピールできる場というのが今度の新入生歓迎会での部活動発表!各部の部長と部員1人が2分間それぞれ部の説明したり、パフォーマンスをしたりする。

で、ここからが相談なんだけどね。」

 

 そう言って、田中は意味深な表情を僕に向けた。う、嫌な予感しかしない。


「そのステージには新庄くんにも出てもらおうと思って。」


「はああああああっ!?」


 ほうら、来ると思った。来ると思ったけれどやはり驚きは隠せない。


「普通、転校生にそれやらせるか!?それに部員なら他にもいるだろう?」


 そう、2人を見た。僕に視線を向けられた2人は気まずげにスッと視線を逸らした。


「まあ、そうカッカしないの。2人ともちょっとあがり症だから出られないの。つまり、君しかいないんだよ。」


「それじゃあ、もし僕が家庭科部に入部する気がなかったらどうしてたんだ?」


「どうするって・・・・・・まあ、1人でやってたよ?」


「・・・・・・」


 それがどうしたと言わんばかりにキョトンとする彼女に、僕はなんてちっぽけな人間なんだろうと申し訳なく思った。


 そんな真顔で言われたら断れないじゃないか。


「うう、わかった。出るよ。」


「そうそう、出ればいいの。案外物分かりいいじゃない、新庄くん。」


 田中は嬉しそうにニッと笑ってみせた。なんだか憎めない笑顔だ。


「それじゃ、これから作戦会議だあー!」


 田中に底抜けに明るい声が家庭科室に響いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る