第46話 さようなら、2018年の奇蹟

翌12月29日、メリルとジョージとマリアが改めて虹いろ探偵団にやって来た。

別れの挨拶をするために。

「リンダさん、キッシュさん、本当に有り難うございました。まさかこんなに長くお世話になるとは思ってもみませんでしたが、一応目の前の問題は乗り越えられたように思います。ハリスのレンタルボックスも見つけていただきましたし、お陰様で心のつっかえも取れました」

と、メリルが言った。

そして、バッグから一枚の写真を取り出した。

「これが、ジミーですって。カーチスの叔母が送ってくれました。ぜひ、リンダやキッシュさんにお見せしたくて」

と、メリルが言った。

私と黒猫は、メリルから差し出された写真を見入った。ジミーが園児たちと並んで写っていた。隣にいる園児の手を取っているらしいジミーは、カメラに向かって優しく微笑んでいた。

「昨日、ここでジミーを見送ったあと、家のポストに届いていたんです。あの後、叔母は、私がジミーのためにずっと祈っていたことを叔父に話したそうです。ジミーがマリアの夢に出てきたことも。そして、私やマリアが、ジミーを一目見たいと写真を探していたことも」

と、メリルが言った。

「わざわざ叔父さん、日頃は行き来をしないジミーの家に行って貰ってきてくれたらしいの。どういう理由をつけて手に入れたかは知らないけれど」

と、マリアが言った。

「やはり、カーチスの叔母さんや叔父さんはメリルのことが可愛くて仕方がないのね。メリルが欲しいならって、わざわざ送ってくれたのよね」

と、私が言った。

そうですね、とメリルが頷いた。

そして、ジョージが挨拶をした。

「本当にトムの件では、皆さんに大変お世話になりました。でも、おかげでトムを孤独の淵から救うことができました。私も今少しずつですが、自分を見つめられるようになりつつあります。本当に有り難うございました」

ジョージはさわやかな表情だった。

そして、マリアが言った。

「最初ここに連れられて来た時は、正直この人たちなんなの?って感じだったんだけれど、今はまるで家族のような存在よ、リンダもキッシュも。恰好をつけたり、見栄を張ったりせず、何でもわからないことを質問して、言いたい事を言い合える、私にとっては大切な人よ。本当に有り難う」

「こちらこそ、とても楽しい時間だったわ。お仕事だってことを忘れちゃうくらいにね。あなたたちグリーン家は最高の依頼人だったわ」

と、私は言った。

マリアが、黙ったままソファで煙草をふかしている黒猫のほうを向いて

「間借りのジミーがいなくなったから、キッシュも自分の家に帰っちゃうの?」

と、訊いた。

ええ帰るわ、と黒猫は頷いた。

「みんな一緒だったのに、なんだか寂しくなっちゃう」

と、マリアが呟くように言った。

「すべてが元の鞘におさまるだけよ。メリルやマリアたちが来る前のね」

と、黒猫が言った。

メリルとマリアとジョージはあらためてこちらに向き直り、三人揃って深々と頭を下げた。そして、ローリーさんにも宜しくお伝えください、とメリルが言って、三人は去って行った。


私は、ため息をついてソファに深くもたれかかった。ただの充足感とも違う、もっと深く心に居座るような、そして、終わったんだ、という何ともいえない寂しさが心を覆ってくるのを感じた。私は一瞬目を閉じて、改めてその感情を確認した。そして、煙草をふかしたままの黒猫を見て

「終わっちゃったわね、全部」

と、言った。

黒猫は何も言わなかった。

私は、黒猫に

「とびきり美味しい珈琲を淹れるわね。それくらいの時間はあるでしょ」

と、言ってキッチンに立った。

いつもと変わらない珈琲の薫りに安堵しながら、私はメリルやジョージやマリアと過ごした夏からの日々を走馬灯のように思い出していた。

黒猫は、私が差し出した淹れたての珈琲を一口流し込み、

「エイドは必ず長生きするよ」

と、呟くように言った。

私も黙って頷いた。

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