第37話 ジョージ・グリーンの決心

12月に入った。ぽかぽかとした日差しが眩しい午後、メリルとマリアとジョージがやって来た。

「実は、マリアとジョージとも話し合ったんですが、間借りのジミーがいる間に、出来る限り親族と合わなくちゃって。それで、ジョージのお母さんに会いに行こうと思うんです」

と、メリルが言った。

「私も、母に恨み言という訳じゃないですが、両親が離婚して養護施設で育ったことで、私も兄もそれなりに辛い思いをしたってことだけは言ってもいいのかなって思い始めました」

と、ジョージが言った。そして、続けた。

この夏、メリルやマリアから自分の分身である真っ黒いヘドロの存在を聞かされ、正直ジョージは戸惑った。当初はこの世にそんなことがあるのかと信じ難く、妻や養女から言いがかりをつけられているとさえ思った。しかし、そのことがきっかけで思い出したくなかった過去を振り返らざるを得なくなった。あらためて、父の言葉、親戚の言葉、養護施設での辛かった子供時代、そして兄トムのことを。

「正直、メリルやマリアから離婚の話を切り出された時は辛かったですね。本当に家を出るしかないと思い悩みました。何故こんなことになってしまったのかと、もう半分やけくそでした。そしたら、自分が今こんな目に合っているのは母のせいだ、と思ったんです」

と、ジョージが言った。

「それで、ジョージはお母さんに電話をしたんですって。言ってくれないものだから、この間まで知らなかったんですが」

と、メリルが合いの手を入れた。そして、ジョージは続けた。

今まで、生き別れた母のことを恨んだことはなかった。両親の離婚も、養護施設に預けられたことも、全部父親のせいだと思ってきたから。だからこそ、兄の死によって母と再会してからも、特にジョージにとってはわだかまりも感じず、素直に母との再会を喜べた。しかし、せっかく手に入れたはずの幸せな家庭が崩壊の危機をむかえた時、はじめて自分のなかにあった母に対するネガティブな思いが沸き上がってきたのだと。

「そう感じてしまったら居ても立っても居られなくなって、会社を出てすぐに母に電話をかけました。そして、メリルと離婚することになるかも知れない、と言いました」

と、ジョージが言った。

すると、ジョージの母は、どうして?この間だって仲睦まじそうにしていたじゃない、原因は何なの?と訊いた。

「それで私は、全部私の心が悪いからだって。私の心が悪いから離婚するしかないんだ。俺の心が悪くなったのはお母さんのせいだ!って、気がついたら叫んでいる自分がいて」

と、ジョージが言った。

「その話を聞いて、私ジョージに言ったんです。蓋をしていた自分の気持ちに気づけて良かったわねって」

と、メリルが言った。

「はい、正直驚きました。自分のなかに母に対するそんな思いがあったなんて。でも、その時はじめてメリルとマリアに言われたことが理解できました。自分の分身の存在も」

と、ジョージは言った。

「凄い進歩でしょ、ジョージパパ!この分でいくと、あの真っ黒い分身がジョージパパの本体におさまる日も近いと思うの」

と、マリアが言った。

「それで私、ジョージのお母様にも長男たちの話をした方が良いような気がしたんです」

と、メリルが言った。

「兄のトムも同じ業で死んだってことがわかった以上、母も知るべきだと思います」

と、ジョージがきっぱりと言った。

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