第6話 兆候

 もうそろそろ六月に入る、五月第……何週だろう。

 気づいたいつの間にか昼休み。

 昼休みに入るまではと言うと……。

 行間休みに入る度、かえでを起こす仕事をしていた。

 なんかわたし、かえでに好き勝手使われている気がする。人間として見られているのだろうか?


「ねぇかえで、わたしのこと便利屋だと思ってないよね?」


「なわけないでしょ〜、あきはあきだよ。私あなたのことあんまり知らないけど」


 なんか誤魔化されてる気がする。まあいいけど。

 すっかりかえでと会話することに慣れてきた。

 今はもう変な緊張をしたりはしない。

 

 そういや、かえではわたしのことあんまり知らないんだな。

 それもそうか。わたしが一方的に絡んでるだけなんだもんね。

 なんか悔しいし悲しい。

 やっと念願の幻の島に到着したのに、お前には資格がない――なんて言われているような感じ。


 ふと、その感情に違和感を覚える。

 さっきからなんなんだろうわたしは。

 というかなんでそんなにかえでに拘っているんだ?

 最近よくわからない感情を抱くことが多い。

 それもこれも大体隣のこいつ《かえで》のせい。

 

 一旦この件は置いておこう。

 この流れは非常にまずい。かえでにペースを掴まれているに違いない。

 わたしのペースに戻さなくては……!

 わたしはかえでと友達になりたいだけなのに。


「そういやかえではなんで寝てばっかなの?」


 椅子によりかかってポケーっとしてるかえでに声をかける。

 質問攻め作戦だ。

 本当はかえでにわたしのことを知ってもらいたいんだけど……。

 でも、かえでのことを知ることができるんだからこの際良しとする。


「ん〜、なんでだろうね? 暇だから?」


 わざとらしく両腕を横に広げ、海外の人のようなジェスチャーをして返事をしてくる。

 疑問形で返ってきた。本当に、特に深い理由はないんだろうな。

 だったらその睡眠の時間をわたしとの時間に置き換えてくれたりするのだろうか?


「逆にさ質問、なんであきは私についてくるの? 前も聞いたけど、私なんかしたっけ?」


「もしかして迷惑……?」


「いや、そういう訳じゃないよ? おもし……」


 そこでかえでは言い淀んだ。

 これまたわざとらしく、ハッとした顔をして口に手を当てている。くそお可愛い。

 そしてやっぱり、わたしおもちゃにされてる?


「わたしのことおもちゃだと思ってない? ……人間としてみてるよね?」


「気のせー気のせー。あきもちゃんと人間の、女の子の一人として見てますよ〜」


 さっきまでの動きはどこへ行ったのか、何でもなさそうに欠伸をしながらかえでは言う。


「で? なんで私についてくるの? 友達いないから私についてきてる?」


「友達いないのはかえでも一緒でしょ……。

 ただなんなくかえでが気になったから······。」


「おやおやおや? 愛の告白〜? 大胆だねえ。

 もしかして私に気があります? 女の子同士とはなかなか……」


 からかうようにニヤニヤしながらかえでは笑っていた。


「ちっ違う! そういう意味じゃない!」


「知ってる〜」


 そう言ってまた一層ケラケラと彼女は笑う。さっきからからかわれてばっかだ。

 くそお……。

 

「やっぱあきって面白い。こんな面白いやつ初めて見たかも」


「やっぱ面白いって思ってたんじゃん!」


「そういうとこが面白くてかわいい。素直じゃないところがね」


「あ、顔が紅くなった。可愛いって言われて満更でもないんでしょ。そういうとこもかわいい」


 さっきからなんなんだろう。悔しいはずなのに、恥ずかしい気持ちなのに悪い気分じゃない。

 本当に最近、わたしは何かがおかしい。一体なんなんだろう、この感情は。答えを探してみる。

 ······出そうにないや。


「お、あきが自分の世界に入った。んじゃ、おやすみ〜。図書室で寝てるから~」


 なにか聞こえた気がする。今はそれどころじゃない。本当に本当になんなんだ、最近のわたしは。

 ここが家だったら今頃わたしはベットに突っ伏して足をバタバタさせていたかもしれない。

 調子が狂う。かえでが面白そうだから興味本位で近づいたのに、飼い慣らされている。

 元々主導権はわたしにあったのに。

 ……ん?

 わたしはかえでに対して主導権を持ちたいのか……?


 仮に主導権を持てば何が出来る? かえでに好きな時に話しかけたり、一緒に寝たり、一緒に歩ける。それにそばにいて観察――観察ってなんだ今思えば。   

 まあ色々なことができる。


 あれ、別にそれ今も同じじゃん。

 んんんん??? わからない。なんなんだろう。この感じは。

 悪い気分ではないけど、なにか物足りないんだ。

 

 結局どれもこれもかえでが原因なのだ。奴と一緒に行動すればいずれは答えが出るはず······。

 別に結論を今すぐ出す必要は無いよね。だったら、ゆっくりゆっくり考えていこう。


 あれ、かえでどこ?

 

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