スラム街編.5.今後の方針


【なぁ、それへ何をしてんだ??】


 何処か楽しげな様子のアークの声が脳内に響き渡り、思わず手元が狂ってしまいます。


「……見て分かりませんか?」


【さっきのハゲ頭か?】


「えぇ、マスターである私の手で殺せばダンジョンの外でもDPを得られるかの実験です」


 気が遠くなるほどの長い年月を埋まって過ごしていたらしいアークのダンジョンは、その維持費という支出のみで収入がない状態が続いていた事もあって、私を喚び出した時には既にDPがほぼ空の状態でした。

 ですので早急にDPを貯めないといけないのですが、そのDPを貯めるためにせめて拡張をしようと思ってもDPが足りないために……と、本当にどうにもならない状況が続いています。

 ですので、ダンジョンそのものと繋がっている私が直接殺せばそのままDPを貯められないかなと思って色々と試してみたのですが――


「……無理そうですね」


【そりゃあロックされてるからな】


「そうですか、そう美味い話はないという事ですね」


 仕方ありませんので、このまま少しずつあの地下水道にあるダンジョンへと人を連れ込んで殺しますか。

 少しずつ、少しずつ……地道にポイントを貯めて武器を創り、仲魔を創り……まずはダンジョン周辺地域の制圧を目指しましょう。


「まさかダンジョンが街中にあるとは少し予想外でした」


【俺様もビックリだぜ! ……これからどうする?】


「……そうですね、幸いな事に街中と言ってもここはスラム街の様ですから……」


 足下にあった喉が搔き切られた成人男性の死体を引き摺ってダンジョンへと戻りながら、これからの事を思案します。

 こんな場所に流れ着いた様な人物が多少見掛けなくなったところで事件が表沙汰になる可能性は低いでしょう……先ほど殺害した男性とのやり取りからも、この場で人が消えたり消されたりといった事は日常茶飯事なのだと予想できます。


「……やる事は一つですね」


【お? 方針は決まったか?】


「えぇ」


 私が留守にしていても安心できるくらいにダンジョンの防衛を整える為のDPを稼ぐ、ダンジョン周辺地域を制圧して安全保障を確かなものとする、そしていずれは世界各地にあるらしいアークの同類ダンジョンに攻め込む必要があるとなれば――


「――先ずはこのスラムを牛耳りたいと思います」


 ここがスラムであり、さらにこの今引き摺っている男性が所属する様な団体が自治の真似事をしているのであれば、このスラムを内包する街の行政が介入してくる事はほぼないでしょう。

 いえ、街の行政に気付かれて介入してくる前に少しずつこのスラム街で勢力を築き上げ、DPを稼いではまた勢力を大きくし、そうしてスラム街を掌握したのなら次はこの街そのものに手を伸ばします。


「ダンジョンは神の敵なのでしょう? であるならば、この開幕から敵地のド真ん中という最悪の立地で存在を隠しながら暗躍するしかありません」


【そうだな、人間共にバレたら軍隊を差し向けられるかも知れねぇな】


「まぁ、むしろチャンスとも考えられますが」


【ほう?】


 だってそうでしょう?


「――こんなに沢山のご飯が目の前にあるんですから」


【やっぱお前をマスターにして良かったぜ】


 ダンジョン領域内に入るや否や実体化し、馴れ馴れしく肩を組んでくるアークに眉を顰めながらも、この街を丸ごと食べてしまう算段を立てるべく準備に取り掛かります。


「貴重な労働力なんですから、アークにも働いて貰いますからね」


【……俺様ダンジョン内じゃねぇとほぼ何も出来ないんだが】


「ダンジョン内なら動けるのでしょう?」


【こいつマジか】


 何を驚いているのか分かりませんが、現状ではマトモな数の魔物を創造で揃える事すら出来ないのですから、簡単な労働くらいやって貰わないと困ります。


「という訳で、とりあえず男性の遺体を吸収した際に得たポイントと合わせてダンジョン領域を外まで拡げます」


【……ポイントが無くなるが、良いのか?】


「えぇ、構いません」


 下水道の外までどのくらい距離があるのか分かりませんでしたので無駄遣いは出来ないと躊躇していましたが、思ったよりも距離としてはそれほどでもありませんでしたからね。

 そんな事よりも先ほどの男性然り、ダンジョンの外で殺してしまってDPが得れない事の方が問題です。


「ポイントも得られますし、これで把握が使用可能になるので戦場としても下水道は都合がいいです」


【そうか、人間共には暗すぎるんだったか】


「えぇ、その中で私とアークだけが自由に相手を見聞きできるのですから、もしも外で一度に相手に出来ない人数に追われたとしてもここに逃げ込めば有利な立場に立てます」


 最初は少しずつ、誰にもバレない様にそこら辺の孤児や浮浪者を攫って来てはダンジョン内で殺すつもりですが、近場でめぼしい人物をあらかた殺し終えれば少し遠出する必要も出て来ます。

 そうなった時に私は恐らく狙われると思うのです……スキンヘッドの男性の反応からするに、私は商品として売れそうに見えるらしいですから。


「という事ですので、もしもの時の秘匿戦力として活躍して下さいね」


【へいへい、了解しましたよマイマスター】


 さて、そうと決まればさっそく何人か攫って来ますかね――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る