間話 未だ見えぬ騎士たちの会話


「で、何でこんなクソ忙しい時期に俺たちを駆り出してまで一体お偉さんがたは何を話してるっつうんだ?」


「貴様、顧問官様のご説明を聞いていなかったのかこの迂愚が。

 西都で起こった邪教徒騒動についての諸侯の意見をお聴きになるために、皇帝陛下がこの場を設けたのだとお話ししておられただろうが。貴様の耳は音を拾わずに空っぽの脳みそを通り過ぎるだけなのか?」


「んなわけねえだろ陰険野郎。俺が聞きたいのは何で会議を開いてまで、陛下が諸侯の意見を聞く必要があったかっていう話だよ。邪教なんだから問答無用で殺すもんだろ?ミュザウの色ボケジジイがなんて言ってようが知ったことじゃねぇ。そのための俺らだろ、違うか?」


「フン、そんなこと分かりきったこと今更聞くなよニワトリ頭。我々が異物を排除することは当然のこと。

 問題はその邪教徒騒動が政治的な意義を持ってしまったことで安易に手出し出来なくなったということ点だ。ミュザウ侯爵が己が欲望の為にこの事態を招いた事などは自明だが、自領の問題は領主が責任を持つというのは封ぜられた者としての義務であり権利であるのだから理屈は通る。

 それにマイヤー伯爵も己に泥をつけられた手前自身でこの件に決着をつけたいのだろう、わざわざ大公家の許しまで持ってきた。」


「へっ、マイヤーもマイヤーだぜ。田舎新米騎士三人と目覚めたての神官風情にやられるとはな。いくら辺境伯領が精鋭揃いとはいえ幾らなんでも怠慢が過ぎるだろう。

 全く西都の守護者だ帝国の天秤だの言われて浮かれてたのやも知れないが、このザマとは随分と質が落ちたようだな。」


「貴様と同じ意見とは腹立たしいな、半人前が。だがマイヤー騎士団が劣化したというのは俺も同意だ。

 中には邪教徒に対し神聖視するものまで現れたと言うのだから軽蔑に値する。だが貴様、情報が古いぞ。邪教徒の護衛騎士の一人はミュザウの騎士団に捕らえられたのち、獄中で死亡しているのが報告されている。国の治安を預かる者ならばその程度の情報など常に調べておけこの青二才が。」


「青二才はオメェもだろが腰抜け野郎。だが邪教徒の女の護衛は三人だったよな?

 騎士団と闘ったのも邪教徒の他に三名だったと報告を受けているが、そのくたばった奴が三人目じゃなかったのか?」


「盆暗が、敵の情報には常に耳を傾けておけ。長剣を背負った異人の剣士らしいぞ、その三人目とやらは。

 なんでも人の身では到底あり得ないはずの跳躍を見せたというし、其奴こそ我々が対処しなければならない相手やも知れぬ。丁度邪教徒として粛清の対象となったことだしな。」


「フゥン、異国の剣士か。今度こそ楽しめる相手だといいんだが、最近の敵はどうも弱っちくて敵わないからな。」


「半可通のくせに一丁前なことを言うな。貴様は遠間からチクチク矢を打つだけだろう?強いも弱いもあるものか。敵から攻撃されないからって調子に乗り過ぎではないか自惚れ者め。」


「ハッ、異教徒を倒すのに最も効率がいいからこの武器を使っているまでよ。それを言いたいなら剣で俺から一本取ってから言えよコンラート。」


「貴様はニワトリ頭ではなくネズミ頭だったようだなカール。俺の得物は剣でなく槍だ。使いもしない武器で劣ったからといってどうと言うことではない。」


「騎士たるもの剣も使えなくては万が一の時剣での対処ができないだろうが。舐めた事言ってんじゃねえぞ。」


「それこそ愚問だ凡才が。俺はそもそも剣を取る理由などない。戦場で槍槍を落とされることなど俺が死んでも有り得ないのだからな。何故なら俺が槍を取られるよりも前に敵は死ぬのだからな。」


「相っ変わらず大した自信家だなオメェは。」


「自信家ではなく事実だ愚鈍。」


「へいへい。ま、貴様が刺すより俺の矢が届く方が速いからせいぜい頑張れよウスノロ野郎。」


「やってみろよ弱兵風情が。」


 弓騎士カール・フォン・ユンギンゲン。

 並びに槍騎士コンラート・フォン・トリアー。


 皇室と北方教会に仕えるミッティリヒ帝国騎士修道会の新星である二人の騎士がいがみ合いつつ高め合うなか、領主会議は厳粛に行われて行く。




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