第26話 ほぼほぼ




 まずはと桜桃に案内されたのは、何重にも入り組み天へ天へと高く聳え立つ赤の蔦と蔦にくっつき、風が吹くたびに、赤と白玉のまん丸く小さい葉が上下左右激しく振動する魔草(魔現薬草の略称で通称)の群集場所であった。


「この魔草は人を襲わないから安心しな。まあ、今までは、だけどね」

「助言に感謝しますよ」


 結界縄に欠点があるとすれば、結界を解く解界師が居ること(ただし解界師の実力によっては解けないこともある)、劣化するので交換する必要があること、結界縄に守られている薬草からの攻撃(ほぼほぼあり得ない状況で、この森以外ではほぼほぼ遭遇しない)は防げないことなどがあった。


 史月は桜桃の発言に口元を引き攣らせつつ、魔草への警戒も怠らず、結界縄の状態を見るべくしゃがんだ。

 溜息を出せば出現する結界縄も、薬草によって、また史月本人の体調や気分によって、材質や色、編み方が異なるものになる。

 今回の結界縄はやわらかい材質で灰色、すこし緩めの編み方だったのだが、今はぴょんぴょんとほつれた材料が盛大に飛び跳ねて、色が濃くなっていた。


「確かに交換した方がいいみたいですね」

「こらこらこら。私の見立ては間違ってなかったみたいだね」

「はい。巡察を怠って申し訳ありませんでした」

「こらこらこら。いいんだよ。これから気を付けてくれれば」

「はい」


 史月は立ち上がって桜桃に深く頭を下げてのち、とりあえず、一部しか見ていないので全体を見るべく、結界縄に沿って歩き出した。












(2021.11.1)


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