第23話 とも




「師匠に会えた嬉しさのあまりはしゃいで体調が悪くなるのは変わらないですね」

「師匠にじゃない」


 浅葱の家にて。

 二階の自室で眠っていた浅葱が扉の叩く音に目を覚まし、入ってもいいですかと問われたので了承すれば、忍灯が入ってきた。

 忍灯は顔が土の色になっている浅葱を見てから、すんと軽く鼻で吸って薬草の匂いを確認してのち、小さく頷いて会話を再開した。


「都雅から遠出の仕事が入ったので様子を見に行ってほしいと言われて来たんですけど。史月も居ないみたいですし、来て正解でしたかね」

「自分で対処できるから大丈夫だ」

「そりゃあ、薬草師ですからね。対処できるでしょうけど。体調が悪い時に食べたくなるものは用意できないでしょうよ」

「持って来てくれたのか?」

「友情に篤い俺っちが今からひとっ走りして買ってきてあげますよ。希望はありますか?」

「何でもいい」

「やれやれ。何でもいいと言う人に限って、これじゃないとか言い出しますからね」

「俺は言わない」

「はいはい。けど、食べて大丈夫ですか?」

「そんなに量を摂らなければ大丈夫だ」

「わかりました。他に食べたいものはありますか?」

「ない」

「そうですか。じゃあ、適当にあんたが好きなものを買ってきますよ」

「忍灯」

「はい?」

「師匠の村の白味噌。量が減っていない方はおまえへの土産だ。持って行け」

「俺っちの家、知っていますよね」

「ああ」

「持って来てくれてもいいんじゃないですか?」

「忘れていた」

「………俺っちへの土産はともかく、必要最低限の生活も忘れないでくださいね」

「ああ」


 だんだんと聞き取りづらくなってきたかと思えば、眠ってしまった浅葱に溜息しか出ない。

 寿命が長く、そうそう死にはしない体質に胡坐をかいていたら、いつか痛い目に。




「遭わないんですよねえ」


 忍灯はまた溜息を出した。

 浅葱を起こすくらい大きく深く。

 けれど浅葱は眠ったままだった。












(2021.10.25)


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