第21話 うそ
人間を大きくしたり小さくしたり、空を飛べたり地中に潜れたり、岩のように硬化したり水のように透過したり、他人に嫌われたり好かれたり。などなど。
およそ非現実的なことを短い時間叶えるのが魔草師の仕事であり、時間は依頼人の金と心次第であった。
ワンピースと同様に原色の下地に水玉模様の茸型の桜桃の家に連れて来られた史月と季梨。桜桃から一階の居間をほぼ占拠する大きな雫型の食卓の上に置かれた森の地図を見せられながら、新調してほしい結界縄の場所を指示されていた。
やる気はないがこれでも結界師の端くれ。覚えているので指示など必要ない。
思ったが口にはしなかった史月。頷きながらこっちだあっちもだと言う桜桃に相槌を打ちながらも、想定より多い数に流石は魔草師が使う植物たちだ一筋縄ではいかないとげんなりした。
さらに辿り着くまでの数々の困難にさらに目から鮮度が失われていった。
「こらこらこらこら。落ち込むんじゃないよ。この頃の森は少し凶暴化しているからね。耐久年数を読み間違えても仕方ない」
「凶暴化ですか?」
「ああ。要らんもんが多くなって、ほしいもんが少なくなって、少し気が立っている。だが、あと数十年もすれば今の環境に順応するさ。まあ、その時にはまた環境が変わっている可能性もあるが」
「はあ」
「なーのーでー、もう少しこの森に来る頻度を増やしてくれるとありがたいねえ」
「僕がですか?」
「私の依頼を最初に請け負ったのはおまえさんだろう」
「交代制だと聞いていたんですけど」
「聞き間違いだね」
断言する桜桃から並んで立つ季梨に視線を向けても、肩を上下に動かして、ぼかあ何も知りませんと言うだけ。
「じゃあ季梨君と僕の交代制でどうですか?」
「交代制って。おまえさん一人じゃあ迷子になるだろ。一緒に来たらいいさ」
「僕はいいっすよ」
「じゃあ、それでお願いします」
「ああ、じゃあ契約を新たに交わすかね」
「はいお願いします」
(巻き込めたからそれでよしとしよう本当は来たくないけど一度引き受けたんだ命がある限りは全うしよう)
「おまえさん今新しい薬草師さんの処に住み込みで働いているんだったかねえ」
「はい」
契約書を用意するのかと手荷物からペンを取り出した史月であったが、桜桃は微塵も動かず話しかけるだけ。何だ今じゃないのかと思いながらペンを戻そうとした時、今度連れて来いと言われて、危うくペンを食卓の上に落としそうになったのを瞬時に手に力を込めて阻止した。
「何故ですか?」
「魔草師と薬草師。目的は違えど植物を扱う同士だからねえ。話してみたいのさ」
「無理だと思いますよ。彼には世話をしなければならない畑があるので」
咄嗟に嘘をついた史月。桜桃が次の言葉を発するより先に行ってきますと告げて、季梨を促し共に家から出たのであった。
(2021.10.21)
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