第16話 瞬き




 恋。

 相手が好きで、いつも会いたい、いつも一緒に居たいと思う気持ち。




 九日ぶりの自前の薬草畑の観察を終えた浅葱。研究室に行く前に家に戻ってから二階の自室へ行き、現代新国語辞典を引いて恋の意味を知ったのだが、自分には当てはまらないと思った。


 史月が好きか嫌いか。

 わからない。


 いつも会いたいか。

 いつも会わなくていい。


 いつも一緒に居たいと思う気持ちがあるか。

 ない。

 いつも一緒に居なくていい。


 結論。

 恋ではない。




(何故皆はあんなに騒いでいたのか。仮に俺の気持ちが恋だとしても、あんなに嬉しそうに騒ぐことじゃないだろう)


 わからない。

 

(人に興味を持ったことがないからな。だからか)


 人は人に興味を持てという考えが多数を占める世間だ。

 村里の皆は、世間からはみ出したら行き辛いと心配しているのだろう。

 けれど無関心なわけじゃない。

 健康であればいいと思っているし、有難い存在だとも思っている。


 ただ、羨望を抱いたことがないだけ。

 強く心を動かされたことがないだけ。


 ただそれだけだ。

 たいしたことではないだろうに。

 

「わからないなあ」


 のんきな口調で言うや、浅葱は研究室に行くのは止めて、寝台の上へと身体を預けて、まっすぐ天井を見つめていたのだが、旅の疲れからか、薬草以外で思考を巡らせたからか、瞬きを多くしてから、眠りに就いたのであった。











(2021.10.15)


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