第4話 サンドイッチ




 何度も何度も誘われても、作ろうという気はさらさら起きなかった。

 けど。

 浅葱の家に世話になって五年。

 もちろん、薬草師と結界師という仕事の関係でしかないのだけれど。

 結界師としてあまり役に立ってないのではいう疑問と。

 無意識に呟くいくつかの言葉を聞き続けて。

 そろり。

 そろり。と。

 その気が起きたのはきっと、気紛れが大半で、残りが以上の理由からだ。

 いや、それともう一つ。

 多分、長い付き合いになりそうだと思ったから。






 浅葱の家にて。

 都雅の料理をしてみないか、との誘いに小さく頷いた史月は今、初めて立った赤いタイル張りの小さな台所で左手を猫の手のように丸めてはトマトをやわく押さえ、右手で包丁を持ってトマトに輪切りにしようとしていたが力の入れすぎで、あわれトマトは無残な姿になってしまった。


「隠れるから問題なし」


 都雅の力強い言葉に頷いて、皿にトマトを置いて包丁とまな板を洗い、次はコンロの上にフライパンを置いて、火を点け、オリーブオイルをたっぷりひいて、フライパンの上に手をかざして、熱が伝わったら中火から弱火に変え、先に割って皿に入れておいた生卵を二個投入。周りが固まってきたら素早く菜箸でかき混ぜる。

 都雅の応援を背に、トマトと違って完璧な黄金色のスクランブルに小さく頷き、皿に入れる。その際に、スクランブルエッグがフライパンから零れ落ちて床に落ちるのはご愛敬。あとで拾って土に混ぜ込むので問題ないのだ。

 フライパン、生卵が入っていた皿、菜箸を洗ったあと、壁に掛けてあるボールを取って、ちぎったレタスを入れて、蛇口から水を注ぎ、軽く洗い、レタスを掴んで思い切り腕を振って水気を切って、皿に乗せる。

 ボールを洗って、二枚の皿に乗せていた二枚のパンにマヨネーズを塗り、一枚のパンに、店で切ってもらっていたハム、レタス、トマト、スクランブルエッグを乗せて、もう片方のパンを乗せて、軽く押す。


「完成したな!」


 目を爛々に輝かせた都雅は、今度は買い物にも誘ってみようかと思いつつ、両手でサンドイッチを乗せた皿を持つ史月に早速持って行こうかと提案すれば、皿を目の前に持ってかれて、首を傾げた。


「どうした?」

「都雅君にあげるよ」

「え?いや」


 史月が急に皿から手を離すので慌てて両手で掴んだ都雅。無事だったサンドイッチに安堵しつつ、すたこらさっさと階段を上って二階の自室へと向かう史月を追おうかどうか悩んで、顔をしかめたのであった。











(2021.10.3)


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