第16話 花

私は花が好きだから

本当は家に花を飾りたいしあなたにも知ってもらいたい花の名前がたくさんある。


私は花が好きだから

本当はもっと花屋に通って花の話ができる人と長々お茶をしながら話してみたい。


私は花が好きだけど

本当は全然わからないまま生きていて

ずっと奥の方の私には到底敵わない私がいる。

私は花よりも好きなあなたと一緒にいるけど

本当は誰よりも愛したあの花を千切って

千切って

千切って

    千切ってここにいる。



私は、花が好きだったけど



もう二度とは会えないあの春の陽気に歌う花々との時間を、そっと忘れて


花が好きだったことも忘れたまま


家に花を飾ることもなく

あなたに花を教えることもなく

わからないまま わからないように

生きていくことを選んだのだから


そろそろ薔薇と

そろそろひなげしの名前くらいは

思い出せたようだから



もう少し経ったら

マーガレットにたどり着くために


明日は一歩外に出て

痛む心の傷を拵えて

明日は一歩外に出て

痛む棘をもつ薔薇を抱えて

明日は一歩外に出て

花を一輪挿してみて


香り豊かな人生に

一度きりの私たちに

最良の

最強の

最高の

花吹雪をお見舞いしよう


さあいざゆかん 花をわたしに




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