勇者の薄毛増毛計画

 俺の名はトモドール・キンボウ。冒険者をしている勇者だ。


 勇者と言っても魔王やドラゴンや悪魔を倒して世界を救わねばならないとかじゃなく、言ってしまえば職業の一つだ。

 条件をクリアしていれば賜ることができる。俺もなりたくて希望したらなれたのだけれど、狙って取ったわけではない。つまり、条件はあるらしいのだけれどわからないのだ。

 神殿の鏡に出てくる職業を賜るための条件というのはほとんどわかっていない。聖女が純潔でなければいけないというのは有名だけれどもね。 

 俺は賢者になりたかったのだが成人の時に賢者が濃くも薄くも出てこなかった。つまりなれないってことだ。勇者が色濃く出たので勇者になり、王立訓練学校には進まないで冒険者になった。勇者ってかなりレアだからさ。勇者と賢者は男にしか出てこない。


 成人の時、フランという幼馴染の恋人がいた。彼女は成人の時に聖女が薄く出てきたことに驚いていたが、聖女になりたいから王立学校に行くと言った。


 「フランが聖女になれたら結婚できないな」

 「聖女になれなかったらトモくん結婚してよ」

 「聖女になったらどうするの?」

 「私は永遠の婚約者がいいなあ」

 「なんだそりゃ? でもまあ、とりあえずそれでもいいか」


 フラン自身が聖女候補であることに驚いたのは俺とちょっとエッチなことをしたことあるから、聖女は出てこないと思ってたんだろうな。逆に言えば、聖女になっても『あれくらい』のエッチなことはしても聖女で居られるってことか。それなら永遠の婚約者でもいいかな。


 俺は訓練を兼ねてソロや臨時パーティで冒険をしてレベルを上げていった。成人前の領民学校の時は、冒険者になったときの為に外国語も勉強していたから結構広範囲に冒険に行った。冒険から帰ると必ずフランのところに行って聖女候補の実習として回復や癒しをしてもらった。

 俺はフランと過ごせて回復してもらえるし、フランは実習実績で報告できるしで丁度良かった。もちろんイチャイチャもした。

 そして卒業し、フランは聖女になった。


 フランは聖女になってから実習先だった治療院を手伝っていたが、そこを譲ってもらって院長になった。先輩が聖女を引退して結婚したらしい。フランの口ぶりからすると、結婚するから聖女を引退したのではなく、聖女ではいられなくなるエッチなことをしちゃったらしい。

 フランが院長になってからフラン製の聖水が変わった。例えれば下級ポーションから上級ポーションになったみたいに効果が強くなった。

 フランはいつも「トモくんの力をもらって作った聖水だから」といって冒険に出るときに聖水をくれる。

 この聖水が凄いんだ。

 俺は勇者なので魔法も使えるけれど剣術のほうが得意だから、間合いが合えば斬撃したい。しかしアンデッドは復活してくるんで暖簾に腕押し、霊体に至っては物理攻撃は効果がない。祝福されたホーリーソードでもあればいいが逆にアンデッド系以外は俺のブレイブソードに及ばない。ブレイブソードは攻撃力付与のエンチャントをかけてあるので祝福エンチャントはかけられない。

 そこでフランの聖水だ。ブレイブソードにフランの聖水を霧吹きでまとわせると祝福賦与されたかのようにダメージを与えられる。普通の聖水でやったこともあるが、剣本来の威力は発揮できない。フランの聖水だと相手がアンデッドではないかのようなダメージを与えられる。


 大抵の冒険は依頼によるクエストなのだが、今回は新発見迷宮のドロップ品目当てで行く。パーティーの仲間もドロップ品の噂を耳にしているようで行きたかったみたいだ。フランには『パーティーの皆が行きたがってるんだ』といってある。俺の目的はドロップしたという噂のエリクサー級のポーションだ。

 本当はフランに相談したかったんだが相談できなかった。今回はお土産を渡した後は治療院での癒しも受けてないし、出発たびだちの挨拶の時も兜ヘルムを装備したままだったので気付かれてないと思う。

 俺の髪の毛が薄くなりつつあることには。


 こんな若さで髪の毛が薄くなるのは血筋ではなく呪いだと思いたい。けれど、フランの超聖水を塗ってみたけれど効果はなかった。それどころか頭皮が無駄にツヤツヤして逆効果だった。


 俺たちが目指している新発見迷宮は『アルケチ迷宮ダンジョン』だ。正式名称は『大きな谷の錬金アルケミー迷宮ダンジョン』となる。高度な錬金術のような効果のポーションがドロップされるのでそういう名前になったようだ。アルケチってのは、珍しいアルケミーアイテムが出るもののドロップ率が低くてあんまり出ない『ケチ』だからってことらしい。

 ダンジョン最寄りのカモノス村で宿をとって準備だ。ギルドでの情報によるとダブリー治療院というところが評判らしい。色っぽい若奥さんヒーラーが人気のようだ。


 ここが噂の治療院か。どうだろう、薄毛の治療とかは駄目だろうな。アタック前の治癒確認ってことで、ダメもとで聞いてみるか。


 「こんばんわ~」

 「いらっしゃいませ! ……あれ?」

 「あれ? 院長……さん?」

 「あらー! フランのカレシじゃなーい! いらっしゃいませー!」


 なんと、ダブリー治療院にいたのはフランの実習先の院長で、ヤっちゃった婚で聖女引退してフランに治療院を譲った先輩元聖女だった。


 「アルケチ迷宮に来たのね! フランもカレシが来るって教えてくれればいいのに~」


 いやや、カレシってわけでは……やっぱカレシなのかな……聖女にカレシってアリなのか?


 「フランにはアルケチだって言ってないんですよ、新発見とは言ったけど」

 「そうなんだー。やっぱりドロップめあて?」

 「はい。パーティーメンバーも期待しまくりで」

 「カレシくんは何が目当てなの?」

 「名前はトモドールです。あの、万能治療薬というか、復元薬というか」

 「万能? 復元というと、トモくんが欲しいのはエリクサー級?」

 「はい、実は……」


 俺はヘルムをはずした。


 「まあ、ええと、お肌つやつやじゃない」

 「薄毛の呪いかと思ってフランの聖水を塗ってみたらつやつやになっちゃって」

 「あらあら、じゃあちょっと診てみましょうか、ここに座ってね」


 オレリーさんは俺の髪を軽くかき分けるようにしてあたまを見ている。丁度目の前に胸の谷間が来て、目のやり場に困……らずにガン見してしまう。聖都にいた時よりも大きくなってないか?

 やっぱり結婚すると……じゃないな、白衣だ。聖都の治療院の時の白衣じゃなく、今フランが着ているのと同じデザインだ。これ絶対に狙ってフランがデザインしたんだよな。


 「呪いではないわね」


 頭の上から声がした。


 「じゃあ血筋ですか?父は全然そんなことないんですが」

 「お爺様のお爺様とか、お母様の血筋が急にあらわれるとか、そういうこともあるわ」


 そういえば、母方の親戚はほとんど知らないな。


 「薄くなりかけは、上の方だけね。横は全然だいじょうぶ」

 「呪いじゃないならどうしたらいいんだろう」

 「そうね、こればっかりは昔から血筋のせいといわれながら、いろいろ試されてるけど。まだ最近薄くなり始めたばかりならば、毛穴に回復魔法でもかけてみましょうか」

 「オレリーさん、今は回復師なんですよね」

 「そうよ、もう聖女じゃないから」

 「聖女でなくなると、どうなるんですか?」

 「浄化ができなくなったり、聖水が作れなくなったり、道具に祝福を施せなくなるわね。回復や鎮魂の光魔法は使えるわ」

 「聖水はやっぱり聖女の力の象徴なんですね」

 「そうね、うちは秘密仕入れルートがあるから現役聖女のいる治療院にも引けを取らないわよ」


 フランが神殿やギルドに納めるほかに送ってるんだろうな。


 「じゃあ毛根に回復魔法をかけてみましょうか。じゃあちょっと両手を出してね」

 オレリーさんは俺の両手を彼女の大きな胸の上にあてがってしまった!

 「はいっ!」


 俺がドキッとした瞬間にオレリーさんは掛け声をかけて頭に手を当て魔法をかけた。


 「成功!」


 鏡を見たら薄くない!


 「最近抜けたのは回復できたみたいね」

 「あの、手をおっぱいにおいたのは」

 「聖力の淀みが結構あったので利用させてもらおうと思って。髪が気になってフランに淀みをヌいてもらってないんでしょう? 淀んだ魔力とか聖力を浄化はできないけど利用はできるのよ。元聖女だから」

 「すごい……薄くない……」

 「トモくん」

 「はい」

 「もう、手をはなしてもいいのよ」

 「あっ、すいません」


 俺はおっぱいに手を置いたままだった。

 オレリーさんは聖女さながらの微笑みをたたえながらこう言った。


 「でも、ちょっと前の状態に回復しただけだから、多分また抜けちゃうわね」


 そんな残酷な。


 「聖女でなくなると、あともうひとつ。ちょっとエッチになっちゃうかも」

 その後、オレリーさんにフラン直伝の「癒し」で淀んでいた聖魔力を浄化ならぬ発散してもらったことはフランには内緒にしておこう。


 迷宮をずいぶん回ったが、俺の目指すエリクサーのような「体の欠損を修復できるポーション」はドロップしなかった。

 アルケチダンジョン、ほんとにケチだな。

 パーティーメンバーのお目当てのアイテムは大抵ドロップできたので、切り上げることにした。初踏破に名乗りを上げたかったんだけど、思ったより深くて、今回行ったところまでの調査報告でも結構な成果だ。


 ギルドの未踏破ダンジョン常設調査クエストの報告をしてパーティの仲間と打ち上げをしていたら、酒場で錬金術師オキシーと知り合い、意気投合して盛り上がった。

 エリクサー級のポーションは実際に作れるものなのか聞いたところ、欠損を生やして修復するには及ばないが、傷や切断などは完全に元通りに修復するポーションの錬成には成功したらしい。だけど彼の目的は果たせなかったと聞いた。

 なんでも自分が破ってしまった奥さんの処女膜を修復したが、目的は果たせなかったので結局奥さんに二度目の処女喪失をさせてしまったとかおもしろい話をしてくれたので、俺も調子に乗ってフランの聖女の癒しやフラン直伝の元聖女の人妻のきわどい癒しを受けた話とかをしてしまった。

 その錬金術師から「育毛ポーション」をお土産にもらい、聖都に帰って来た。処女膜再生ポーションを作れる錬金術師のポーションなら期待できる。

 フラン治療院で土産話をしながらあれから毎日使っていた育毛ポーションを見せると、フランが目を丸くして言った


 「トモくん、これ、脱毛ポーションだよ!」


 錬金術師オキシー・ダブリーが元聖女オレリーさんの旦那さんだと知ったのはそのあとのことだった。


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