第3話 アルタナの街(2)

 教会に着いたオレとマリアちゃんは、早速中に入った。建物の中は天井がとても高い。正面には、神様の像が祭られていた。女神さまだ。中をキョロキョロしていると、教会の係員のような女性に声をかけられた。



「今日は何か御用がおありですか?」 


「はい。教会で、魔法の適正と魔力量を調べていただけると聞きましたので、お願いに来ました。」


「そうでしたか。ではこちらにどうぞ。」



 オレは一人で魔法の適性を調べる部屋に誘導された。マリアちゃんには、椅子に座って待っていてもらっている。



「では、この石板に手を置いていただきます。上の表示が赤く光れば火、青く光れば水、茶色に光れば土、紫に光れば雷、無色に光れば光、黒く光れば闇、緑に光れば無属性となります。魔力量は、適性を示す表示の下にある目盛りで見てください。では、私も部屋から出ていますので、終わりましたら声をかけてくださいね。」


「ありがとうございます。」



 オレは、一人になると恐る恐る石板の上に手を置いた。石板は何の変化も示さない。


 

 オレはこの世界の人間じゃないし、魔法が使えなくてもしかたないな。



 半ばあきらめの気持ちで、深呼吸してもう一度手を置いてみた。すると石板が変化し始めた。石板の上の表示が、虹色に変化したのだ。



「えっ~。」



 さらに、適性を示す表示の下の目盛りが振り切れている。




 これ壊れてるんじゃないか?もしこの石板が正常なら・・・オレ、やばいじゃん。




 人に自慢したい気持ちもあったが、正体不明のオレが目立つのは危険が大きすぎると考え、適当にごまかすことにした。



「あの~、終わりました。」


「どうでしたか?」


「どうやら水の適性があるようです。ですが、ほとんど目盛りが動かなかったので、使えるかどうかわかりません。」


「そうですか~。でも、魔法が使えない人も大勢いますから頑張ってくださいね。」


「ありがとうございます。」



 オレは、お布施として大銀貨3枚を渡して、マリアちゃんのところに戻った。



「ツバサ。どうだった?」


「うん。マーサさんと同じ水に適性があったよ。」


「へぇ~。魔力量はどうだったの?」

 

「魔力量はあまりないみたいだから、魔法は使えないかも?」


「いいわ。今日から私が教えてあげる!」


「本当?ありがとう。」



 オレとマリアちゃんはお店に戻った。オレがお店に戻ると、すでにお店にはお客さんが沢山いた。オレとマリアちゃんの姿を見てマーサさんが声をかけてきた。



「ツバサ君。マリア。忙しいから手伝ってくれる?」


「はい。」



 オレは初めてで何をしていいのかわからなかったので、取り敢えず調理場に入って皿洗いをした。マリアちゃんはホールに出て注文を取ったり、料理を運んだりしている。お客達から人気があるようだ。



「やっとマリアちゃんが登場したか。どこに行ってたんだよ?」


「デートよ。」


「えっ!デート?ひでぇな~。オレ毎日通ってんのになぁ~。」



 するとマーサさんがそのお客に声をかける。



「なにかい?すると、あんたは私の亭主の料理を食べに来てるんじゃないのかい?」



 お客はマーサさんの迫力に負けている。



「いや~。ダンテさんの料理が最高なのは当然だよ。それにこの店にはマーサさんのような美人女将もいるしね。」


「わかってるじゃないか。ワッハッハッ。」




 なんかマーサさんは豪快な肝っ玉母さんて感じだな。




 その日の営業が終了して、オレはダンテさんの家族と賄いの夕飯を食べた。そして店の後片付けが終わった後、マリアちゃんが声をかけてきた。



「魔法の訓練どうする?明日からでもいいよ。」



 オレは、今日一日いろいろなことがありすぎてとても疲れていたので、翌日からにしてもらった。一人で小屋に戻って寝ようとしたが、大事なことを忘れていた。




 この世界にはお風呂がないのかなぁ? 体べとべとだよ~。




 オレが小屋に戻ると、マーサさんが布団やタオルを用意してくれていた。そのタオルを持って、店と小屋の間にある井戸に行き、タオルで身体を拭いてさっぱりして布団に入った。布団に入った後に、ここ最近の出来事について振り返ってみた。




 最初に異変があったのがあの映画館だ。あの時の女性は夢でなく現実だ。何故なら手渡されたコインがあるのだから。でも、あの女性はオレの名前を知っていた。何故だろう。オレがこの世界に迷い込んだことと何か関係があるのだろうか?もしかして、このまま寝て起きたら、映画館からの出来事がすべて夢だったということもあり得るよな~。




「チュン。チュン。」



 翌朝、オレは鳥の声に目を覚ました。まだ眠たい眼を開いて周りを確かめる。やはり、夢じゃなかった。



「ふ~。このまま帰れないのかな~。」



 オレは井戸で顔を洗った後、店に顔を出した。すでに、ダンテさんとマーサさんがいた。マリアちゃんは学校に行ったようだ。



「おはようございます。遅くなりました。」


「おはよう。よっぽど疲れていたんだね。ダンテ。朝食を作ってやってくれるかい?」


「ツバサ!やっと起きてきたか。さっさと飯食っちまえよ。今日は市場に行くからな。」


「はい。」


「ところでダンテさん。皆さんはお風呂はどうしているんですか?」


「貴族様じゃあるまいし、普通はどの家庭にも井戸があるから、井戸の水を温めて身体を拭くぐらいだな。」



 朝食は、昨日の残り物のパンとスープだった。オレは、急いで食べた。オレが朝食を食べ終わると、オレとダンテさんは2人で市場に向かった。市場では、肉類、魚類、野菜類、果物類、卵が売られていた。


 オレが気になったのは調味料だ。いくつもの店を回って見たが、味噌や醤油、酢がない。だからどうしても、味付けが塩味と香辛料が中心となってしまう。オレは、市場を回って米を探した。端から端まで探したが、米も見つけることはできなかった。


 オレは、ダンテさんが購入した食材を、持ってきた小型のリヤカーに乗せて店まで帰った。店に着くと、荷物を下ろし水汲みなどをしていたが、ダンテさんとマーサさんは調理場で仕込みを始めていた。それを後ろから見ていると、驚いたことにダンテさんは、指から火を出して着火していた。



 

 やっぱり魔法がある世界なんだぁ。もしかすると、オレはあのコインの女性に呼ばれてきたのかなぁ?




 オレはポケットの中のコインを確かめた。やはりコインには、見たこともない文字のようなものが書かれている。だが、女性の顔が出てこない。




 なんで?どうして思い出せないの?えっ?




 オレは、コインをくれたあの美しい女性を思い浮かべようとしたが、どうしても顔がわからない。オレは少しでも可能性があるならと思い、手に持っているコインについて、ダンテさんに聞いてみようと思った。



「ダンテさん。ちょっといいですか?」


「どうした?ツバサ。」


「このコインですけど、知ってますか?」


「ああ、それは隣の国のナデシノ聖教国のものだぞ。どうしてツバサが持っているんだ?」


「ええ。フエキさんと出会ったときにポケットの中に入ってたんです。」


「ということは、ツバサはナデシノ聖教国の出身かもしれないな。」


「よくわからないんです。」


「まぁ、焦らずじっくり思い出せばいいさ。」



 しばらくして、マリアちゃんが学校から帰ってきた。



「ただいま~。お母さん、ツバサいる?」


「小屋で休憩しているわよ。着替えてから行きなさいね。」


「は~い。」



 オレが一人で考え事をしていると、マリアちゃんが入ってきた。



「ツバサ。今日から魔法の練習ね。開店までまだ時間があるから、これからすぐやるよ。」



 オレは小屋の外に出て、マリアちゃんから魔法の基礎を習った。最初に、自分の魔力を感じ取る方法だ。オレが悪戦苦闘している様子を見て、マリアちゃんがオレの手を握ってくる。



「ツバサ、いい?私が、ツバサに魔力を流すからそれを感じてみて。」



 頬を赤くしているマリアちゃんの手から、熱い何かが流れ込んでくるのが分かった。



「どう?何か感じた?」


「熱いものが流れてきた。」


「それが魔力よ。自分で、体の中の魔力を感じられる?」



 オレは、体の中に流れ込んだものと同じものを探してみた。すると、その熱いもの、恐らく『魔力』が血液のように体中を循環しているのが分かった。



「あったよ。」


「よかった~。これで第1段階が終了よ。このまま続けると疲れちゃうから、後は閉店してからね。」


「マリアちゃん、ありがとうね。」



 オレが笑顔でお礼を言うと、なぜかマリアちゃんはいそいそと家の中に入って行ってしまった。




 どうしたんだろう?オレ何か気に障ること言ったかな?

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