第6話 私は絶対に恋愛なんてしない! Ⅵ

 どんな学校にもカリキュラムや時間割というものがある。

 全寮制のパブリックスクールであるカナリッジ魔法校もまた、同様だ。


 と言っても、決して厳しいわけではない。

 まずモーニングは八時五十分までに食べることが義務付けられている。

 

 授業は一コマ、一時間半。

 九時から一時限が始まり、途中に休憩時間を挟みつつ、十六時十分までに合計四コマある。


 そこから二十時に始まるディナーまでは自由時間。

 それから二十四時までに就寝。


 と、そんな感じである。


 モーニングとディナーはダイニングホールで食べることになるが、ランチは自由だ。

 ダイニングホールではもちろん、学生向けに屋台が開かれたりするので、そこで買って食べても良い。


 今日は屋台の気分だった。

 サンドウィッチを買い、どこで食べようかと少しうろついていると……


「あっ……」

「……あっ」


 丁度良さそうなベンチで、食事中のジャスティンを見つけてしまった。

 しっかりと、目と目が合ってしまった。

 そしてジャスティンのすぐ横は、私一人が座るには丁度良さそうなスペースが空いている。


 ……どうしようか。

 いくら席を探していると言っても、男の子の隣に座るのは、なんというか、まるで……気があるみたいな感じだ。


 しかし明らかに座る場所を探しているにも関わらず、目と目とがしっかりと合ったのに、敢えて別の場所に座るのも……

 

 い、いや……落ち着け、私。

 別に私はジャスティンのことなんて、全然好きじゃないのだ。

 意識なんかしていない。


 なら、隣に座ったっていいじゃないか。

 ジャスティンがどんな勘違いをしても、別に……私には全然、関係ないんだから。


 昼休憩の時間は決して長くない。

 合理的に考えれば、座るべきだ。


「……ミスター・ウィンチスコット。隣、良いですか?」

「……好きにしろ」


 遠慮なく、私はジャスティンの隣に座った。


 そして買ったばかりのサンドウィッチを膝の上に乗せ、包み紙を開く。

 バゲットにハムやチーズ、レタスなどが挟んである……シンプルなものだ。


 黙々と、サンドウィッチを食べる。

 私とジャスティンとの間に……会話はない。


 お話するために隣に座ったわけではないのだ。

 たまたま……そう、席が空いていたから座っただけだ。


 ……気まずいな。


「ミスター・ウィンチスコット。……それは何のサンドウィッチですか?」


 今回、先に座ったのは私だ。

 なので、私から会話を投げかけることにした。


「フィッシュアンドチップスが挟んであるやつだ」


 そう言ってジャスティンは食べている途中のサンドウィッチを見せてくれた。

 なるほど、確かにパンにフィッシュアンドチップスが挟んである。

 それ以外にもレタスとトマトと、おそらくタルタルソースらしきものが確認できる。


「……美味しそうですね。どこで売ってます?」


 私のサンドウィッチよりも美味しそうだ。

 明日はそれを買おう。


「あっちの方で売っていた。……食べたい?」

「……いいんですか?」


 実は私はタルタルソースが好きだ。

 特にフィッシュアンドチップスにタルタルソースの付け合わせが好きだ。

 正確に言えば、タルタルソースにフィッシュアンドチップスを付けて食べるのが好きなのかもしれない。

 フィッシュアンドチップスとタルタルソースなら、後者が本体だ。


「一口ならいいぞ」(そんなに目を輝かされたら、嫌とは言えないだろう)


 べ、別に、どうしても欲しいわけじゃないけど……

 ま、まあ、でも、ジャスティンがくれるというなら食べよう。


 ……しかしどうやって、分けてくれるつもりなのだろうか?

 フォークやナイフはないし。

 手で千切るのは、少し難しいんじゃないか?


 と思っていると……


「ほら」

「……え?」


 ジャスティンは何故か、サンドウィッチを千切らずにそのまま差し出してきた。

 ……全部あげるということか?

 いや、違う。


 これは……


「食べないのか?」(遠慮しているのか?)


 まさか、このまま食い千切れということか?


 私はまじまじとジャスティンの食べ掛け、サンドウィッチの断面を見る。

 自然と体がカッと熱くなるのを感じた。


 これは、あれじゃないか?

 いわゆる、間接……キスというやつじゃないか?


 まさか、嵌められた?

 っく……ジャスティンめ……食べ物で釣るとは、卑怯な!


 そう思い、ジャスティンを軽く睨むと……首を傾げられた。

 意図したことじゃ……ない?


 そうか、男子同士は普通にこういうことを、やったりするから……

 ジャスティンは気にならないのか。


 あれ……気にしているのは、私だけ?

 ……私だけ、意識しちゃっているみたいな?


 い、いや、まさか!

 べ、別に意識なんてしていない!


 か、間接キスが何だと言うんだ。

 少し彼の唾液が付着しているだけで、別に味には何の問題もあるまい。

 ジャスティンが風邪でも引いてない限り、大丈夫だ。


 全然、大したことじゃない。


 間接キスくらい……い、いや、そもそも、“間接”の時点でキスじゃないし!


「ミス・スミス? いらな……」

「食べます!」


 私はそう言うと、ジャスティンのサンドウィッチに齧り付いた。

 口の中にタルタルソースの味が広がる。


「どうだ?」

「美味しいです」


 うん、美味しい。

 当然だ……タルタルソースの時点で不味いわけがない。


 さて……

 一口貰ったのに、何も返さないのはちょっと、不公平だな。


「……はい、どうぞ」

「え?」

「お返しです。がぶりとしてください」


 私は自分のサンドウィッチをジャスティンへ、差し出した。

 あいにく、バゲットのサンドウィッチなので手で千切るのは難しい。

 

「なるほど。ありがとう」


 ジャスティンは大きく口を開けて、私のサンドウィッチに歯を立てた。

 シャキっと、レタスが音を立てる。


「ん……美味しい」

「そうですか。それは良かったです」


 それから私もサンドウィッチを齧る。

 ……ジャスティンが食べた後だが、別にだからと言って、何かあるわけではない。

 そう、何もないのだ。

 そんなこと、気にする方がおかしい。


 事実、ジャスティンも特に気にした素振りを見せず、私が口を付けた自分のサンドウィッチを食べている。

 ジャスティンが気にしていないのだ。


 私が気にするはずが……


(それにしても……今更だけど、これって、間接キスだよな?)

 

 心臓が大きく脈打った。

 体温が一気に上がり、胸と下腹部がキューっとなるのを感じる。


「……ミス・スミス? 顔が赤いけど、大丈夫か?」(体調でも悪いのか?)


 だ、誰のせいだと……

 私は思わずジャスティンを睨みつけた。


 一方のジャスティンはきょとんとした表情。


 っく、何か、悔しい……


 敗北感と屈辱に私が身を震わせている、その時だった。


「み、見て! 見つめ合ってる!! もしかして、キスするんじゃ……間接キスだけじゃなくて、直接なんて……っく、羨ましい……」

「っちょ、聞こえてるでしょ!!」


 背後から、草木が擦れる音と人の声が聞こえた。

 私とジャスティンが振り返る……と、そこには女子生徒の姿があった。


 私たちと目が合うと、彼女たちは一目散に逃げ出した。 

 

 思わず、ジャスティンの顔を見た。 

 彼の顔は赤かった。


 そしてきっと、私の顔も赤かった。






______________________________________



ちなみになんですけど

「パブリックスクール」は私立です。公立ではないです。


はぇー、オリヴィアちゃん可愛いなぁ

と思った方はフォローとレビュー(☆☆☆を★★★に)をよろしくお願いします

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