12話「理由」

 パフェを食べ終え、せっかく来たのだからと山田さんの希望でもう一杯だけ飲み物をお代わりした。

 一口貰ったパフェは、甘くてとても美味しかった。


 入店してもう三十分以上経つだろうか?

 しばらく経つため、山田さんがすぐ隣に座っているというこの状況にも、俺は徐々に慣れ……たりなどはしなかった。


 すぐ隣に、あの山田さんが居るのだ。

 ちらっと隣を伺えば、真っ直ぐに伸びた綺麗な金髪の日本人離れした絶世の美少女がお茶しているこのあり得ない状況に、三十分程度で陰キャの俺が慣れるわけが無かった。


 山田さんが動く度、揺れる髪から漂うフローラル系の良い香りに、俺は平静を保つのがやっとだった。


「太郎くん、今日はありがとね」

「え? ううん、俺も楽しいよ。むしろ誘ってくれてありがとう」

「うん、なら良かったよ」


 そう返事すると、山田さんは嬉しそうに笑ってくれた。

 山田さんは、こうして何故だか俺に対しては他の人へ向ける無関心とは違って、色んな表情を見せてくれる。

 今まで、そう沢山話したりしてきたわけでも無いのに、何故俺は山田さんに受け入れられてるのかがずっと不思議だった。


 だから俺は、今なら聞ける気がして、思いきってその事を聞いてみる事にした。


「あの、さ。一緒に下校する件もそうだけど、華子さんはなんで俺とはその、仲良くしてくれるの、かな? そ、その、華子さんって、他の男子とはあんまり関わろうとしてないような気がしてさ」

「それは太郎くんだからだよ」

「そ、それはどういう……」

「太郎くんはあの日困ってる私を助けてくれた。私に変な目を向けてこない面白くて、優しい人。あとフフッ、名前も一緒ね」


 あの日、というのは、転校初日の下駄箱の件だろう。


 山田太郎と、山田華子。

 この無個性テンプレネームのおかげで、互いにシンパシーを感じられたからこそ近付けたというのは、俺も山田さんに対してそうだったから気持ちは分かる。


 山田さんは、俺と仲良くしてくれる理由をちゃんと教えてくれた。

 ただこれまでの人生、こうして直接異性から褒められるなんて経験がほとんど無かった俺は、どうリアクションして良いのか分からなくて、また顔を赤くして戸惑う事しか出来なかった。



「……それにね」

「そ、それに?」


 どうやら、まだ続きがあるようだ。

 山田さんはちょっとだけはにかみながら、言葉を続けた。


「私だって、女の子だよ?」


 え? うん?

 そんな事は、俺だけじゃなくて学校の全員が思っている事だろう。

 なんなら、山田さんこそ女の子オブ女の子だ。


 そんなきょとんとしてる俺を見て、クスリと笑った山田さんは更に言葉を続けた。


「だからね、相手はちゃんと選ぶよ?」


 その一言で、鈍感な俺でも山田さんが何を言っているのか理解した。

 それと同時に、更に顔は真っ赤になり、最早俺なんかの頭では処理しきれず思考停止に追い込まれた。



「太郎くんは、きっと自分で思ってるよりもずっとカッコいいよ」


 そんな限界を迎えた俺に、最後のダメ押しとばかりに投げ込まれたその一言によって、俺は完全にノックアウトしたのであった。


 そんな俺を真っ直ぐ見つめてくる山田さんの頬もまた、ほんのりと赤く染まっていた。


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