人の力を引き出す豊かさと温かさ

  • ★★★ Excellent!!!

厭世的な一面を持ち、こと対人となると受け取り方にも考え方にも少々厄介な面のある椿と、あっけらかんとしてぐいぐい引っ張りもするけれど、決して踏み込み過ぎない向日葵。そんな新婚夫婦の、静岡を舞台にしたほのぼのとした日常を追っていく作品。

向日葵との疑いようのない双方向の愛情と、温かな家族や近隣の人々、静岡の豊かな自然と実りが、日を追うにつれて椿の"何者にもなれなかった自分"の中身をゆっくりと満たして行く。
そんな日々がやがて機を熟させ、彼は自ら、"置いてきたもの"をひとつ拾いに行く。それによって彼の世界は大きく動き出し、彼自身もまた前へ進んで行く。

椿の変化に胸が熱くなりますし、その変化する力を引き出した向日葵や静岡という土地の魅力もたっぷり味わえるお話です。