第4話別れを告げる

ラージャは、別れを告げる。

「さようなら。」

人間を信じる自分に。勇者に。スカサハに。

「ぐっ、ぎゃあああ…!!」

室内にスカサハの断末魔が響く。

「さてと、次は…王か。いや、やっぱりやめよう。」

元凶はこの王だ。だからこそ、すぐには殺さない。じわじわと追い詰めて、王の逃げ場を無くしてからだ。そのために、ラージャにはやるべきことがある。


「スカサハがやけに遅いのう。もう一時間経っておるぞ。」

王は困惑していた。スカサハが約束の時間になっても来ないのだ。

「ラージャに手こずっておるのか?いや、そんな筈はない。あの部屋に入った勇者は、無力化する筈じゃ。」

スカサハが連れて行った部屋には、勇者を無力化させるお香がたいてあるのだ。

「さては、あの女の体を楽しんでおるのかのう?あやつは、勇者とはいえ、いい体をしとったからのう。」

下卑た笑みを浮かべ、王は言った。

「殺すのではなく、わしの妾にしておいた方が良かったかのう?」


ラージャは、魔法陣の真ん中に血を一滴垂らした。すると、その魔法陣を中心に黒い者が出てくる。

「久しぶりだね。魔王サーシャ。」

「私を蘇らせてくれたこと、恩に着ます。ラージャ。」

それは、白い肌の、端整な顔立ちの女性だった。その美しい顔に鎮座する紫の双眸がラージャを見つめる。

「ラージャ。貴方の事は分かっています。復讐に手を貸しましょう。」

「ありがとう、サーシャ。そして、ごめんなさい。貴方の話をちゃんと聞くべきだったわ。」

サーシャは、言っていた。

(「私が死んだとしても、平和は訪れません。邪魔な私を排除した後、人間は、人間同士で争うでしょう。」

「魔物だからといって命が軽くなるわけではありません。魔物も人間と同じ様に生きているのです。」

「魔物が例え、人間を食べてしまったとしても、それを誰が咎められましょうか?人間も同じ様に、生き物の命を奪うでしょう。」

「魔物にも、生きる権利がある筈です。権利は、人間だけが与えられる物ではありません。」

「私は、人間がこちらを攻撃しなければ、人間に危害を加える気はありません。私が望むのは、魔物も安心して暮らせる世界になることです。」)

「良いのです。分かってくださり、ありがとうございます。」

つくづく、ラージャは思う。何故、サーシャが聖女ではないのか?と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る