第12話 炎の鳥

 急に現れた巨大な火の鳥にケリードは呆然と立ち尽くす。


 鳥が羽ばたくと纏う炎が揺らめき、熱風が起こり、ケリードは顔を腕で覆った。


 あまりの炎の激しさと、その熱に呼吸をすれば喉が焼けるように熱くなる。

 銀の仮面をつけた人物は意識がないようで倒れたまま動かない。


 炎の鳥は倒れた人物を守るようにケリードを威嚇し、唸り声を上げる。


 身の危険を感じる熱さにケリードは倒れている人物が焼けてしまわないか心配になる。


 ようやく、見つけたのにこんな所で死なれては困る。


 ケリードは一歩、足を踏み出すと火の鳥がケリードを睨みつけた。

 そして倒れた主の側に降り立ち、火の粉を散らしながら、大きな翼を広げた。


「キイイィィィィィィ」


 火の鳥は天に向かって悲鳴のような声を上げ、主を覆うように翼を閉じる。

 すると主を中心に何かの印が浮かび上がり、赤く発光した。


「あれは……」


 ケリードが呟くと同時に浮かび上がった印に吸い込まれるように火の鳥と主は姿を消した。


 火の鳥が消えると辺りは再び闇に飲まれ、ぼんやりとした月明りが穴の開いた天井から降り注いでいる。


 手持ちのライトで辺りを照らしても銀の仮面を付けていた人物もいなくなっていて、今の出来事が嘘のように静かで何も残っていなかった。


 ケリードはライトを消して懐にしまいながら、頬が緩むのを我慢できず、嬉々とした表情を浮かべる。


 まさかこんなに早く正体と掴めるなんて思っていなかった。


 仮面の下を暴いたところで、自身が何者か、認めさせるのには時間を要しただろう。


 素直に従うはずがないのは分かっていた。


 だからこんな風に確信を得ることが出来るとは思っておらず、ケリードは口元に笑みを浮かべる。


「もう逃がさないよ」


 艶っぽい声で呟き、頭の中で思い描いた人物に縄を掛ける。


 瞼の裏に浮かぶのは幼い少女だ。


 煌めく金色の髪をなびかせ、大きな瞳は涙で潤み、ケリードをじっと見上げている。


「やっと見つけたんだ……絶対に逃がさないよ」


 アイスブルーの瞳の奥は執着心で燃えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る