かくれんぼ

 小学生の頃、友達とかくれんぼをした時のことだ。

 その日、先生は研修があるということで会議室に集まっており、校舎は子どもだけの空間のようだった。

 ちょうど日が暮れる時間だったので、薄暗くなりかけて少し怖かったがそれもかくれんぼのスリルと相まって楽しいと感じていた。

 

 私は印刷室に隠れた。

 普段は生徒立ち入り禁止だが、ここなら見つかりにくいだろうと思った。

 中は1台の印刷機とコピー用紙が置いてあるだけで案外狭くてあっけなかったなと思ったが、息苦しく感じたので廊下に面する壁の下に付いた小窓を開けてそこから換気がてら外の様子を覗き見ることにした。

 

 しばらくすると、誰かがこちらへ向かってくる足音がした。

 少しドキドキしながらもこちら側からは足元が見えるので、あちらの存在が分かる自分の方が優位に感じた。

 足音はどんどんこちらへ向かってくるが、何かおかしいと思った。足音に耳をすます。


「ヒタヒタヒタヒタ」


 この足音は上靴で廊下を歩く音ではない。

 おそらく、裸足で廊下を歩いているのだ。

 なぜ裸足で歩いているのかと思ったが、どんどんその足音は近づいてくる。


「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」


 怖い、と思った。こんなに怖い思いをするなら見つかってしまいたいとも。

 でも、もし廊下を歩く者が友達ではなかったら?

 小窓の外から廊下を眺めて、あいつをやり過ごす方が賢明だと感じた。


「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ・・・・・・」


 小窓からは何者かが通り過ぎていくのが見えた。

 その何者かはやはり裸足で、肌の色は灰色に近く、生気は感じなかった。

 やはりこの世の者ではなかったのかと思うと背筋がひんやりと冷えた。


 よし、もう見つかってもいいから走ってみんなの元へ戻ろうと思うと、複数人の話し声と足音が聞こえた。


 きっといつまで経っても見つからない自分をみんなで探しに来たのだろう。

 さっきの出来事を話したらきっとみんなは驚くだろう。

 部屋を出ようと小窓を閉めようとした時、足音がさらに大きくなっていると思い、耳を澄ませた。



「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る