第30話 次元

【ここまでのあらすじ:洸一は医療機器メーカーの開発部に勤める35歳。某国スポンサーの再生人間プロジェクトで洸一から複製された人間である陽一は、身体のみならず記憶も人格も洸一の複製。8月下旬から共に練馬区に同居し、互いに高め合っていく】


2022年10月30日 日曜日


陽一が天才について考えているとき、洸一は次元について考えていた。


次元というのもTVや映画、コミックでしばしば題材となる。


4次元空間を経由して移動したりあるいは失踪したり、無限に物を格納したり、我々の住む(というか認識できる)3次元より高い次元においては、我々が不可能としか思えないことができるのだ。


4次元以上は認識できない?


4次元は空間の3軸(高さ、幅、奥行き)に時間を加えたもの、という解釈は正しくない。数学においては理論上4次元どころかいくらでも高次元を考えることができ、陽一の考えているのは、数学上の次元の話だ。


たとえば、立方体には6つの面(正方形)と8個の頂点、12本の辺がある。3次元だから立方体なのだが、4次元でも「超立方体」として定義されており、テッセラクトとも呼ばれる。


テッセラクトは3次元的に表現できるが、陽一にはそれを見てもまだそれが高次元のものと感じることはできない。


陽一は数学は大学2年の教養までしかやっていないのだが、もし数学者が4次元を認識できるなら、勉強してみたいと思った。いや、数学者でも「認識」はできないのかもしれない。ただ彼らの手段を使って「定義」できるだけかもしれない。


しかし仮に4次元世界を認識できたとしたらどうなるのだろう。


それはまるで、床の上を這いまわることしかできない虫を上から見ている人間のように、3次元世界の中でしか動けない人間を不自由に見えるようなものなのだろうか。


たとえ4次元世界の住人ではないにしても、それを認識できるのであれば、移動はできないにせよ3次元世界でワープしたり突然何かが現れたりするのが見えるのかもしれないし、この世界が嫌で逃げ出したくなったら、少なくとも脱出口は見えるのかもしれない。


いや、ある有名な物理学者だったと思うが、問題を解決しようとして壁にぶつかったら次元を上げて考えよ、と言った。彼は数学でいう特異点解消定理のことを言っていたのかもしれないが、ひょっとしたら4次元が見えていたのかも、と陽一は思う。


この世で生まれた解決不可能と思われる問題も、4次元が認識できることで解決の糸口が見つかるのであれば、そのような能力を持った人間というものがどういう存在なのかますます興味が湧いてきた。


(続く)

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