第28話 目標

2022年10月29日 土曜日


朝5時半。まだ外は暗いがいつものとおり二人は走り出す。


二人の口数は日に日に減っている。何も言わなくとも、お互いに考えていることがわかるようになってきたからだ。


朝焼けに向かい、ひんやりした空気の中、静かな街を40分ほど走るとやっと汗がにじんでくる。いよいよランニングのシーズンだ。


ランニングに関しては、これまで二人はタイムとか距離とか目標を特に定めていなかったが、10月に入ってから目標を決めた。年内にフルマラソンで3時間を切ること。


サブスリー


ランナーの間ではひとつのステイタスでありあこがれのタイムだ。サブスリーを達成すれば上級者ランナーの仲間入りと言ってもいい。


サブスリーを達成するには、1キロ4分14秒平均で走らなければならない。後半のペースダウンや、勾配のあるコースを考えると、1キロ4分で楽に走れる走力を身につけておかなければならない。


10月1日時点の二人の走力は、10キロの自己ベスト(非公式だが)が43分。1キロ平均4分18秒。これではサブスリーは危うい。


そこで3か月計画を立てた。月曜はジョグ60分、火曜はスピード練習、水曜はジョグ60分、木曜は4分=4分15秒ペースで10㎞走、金曜はランオフ、土曜はロング30㎞の週とジョギングの週を交互に、日曜はジョグ60分、という無理のない計画にした。


ランナーにとってもっとも成長を阻害するのは故障だ。膝やアキレス腱、足底にさまざまな炎症が現れる。炎症がひどくなる前にリカバリーしないとかえって走れなくなる。


リカバリーで最も重要なのは血行を良くすることだ。血行を良くするのには低めの温度で15分入浴するのが最も効果的であることを二人は知っているので、シャワーではなく入浴に切り替えた。


ランニングは足だけでなく、上半身と連動ししっかり軸を保って地面からの反発をうまく使うことで、自然にスピードに乗れるし無駄がなく、故障も防げるので、二人はお互いのフォームチェックも欠かさない。お互いがコーチだ。


たった1ヶ月だが、計画どおりこなすことで10㎞をキロ4ペースは二人にとって楽なペースになっていた。


適度なランニングで体調もよくなり、脳も活性化され、いいアイデアも出るし仕事もはかどる。いいことづくめだ。


着実に目標に近づいていることで、洸一も陽一も日々小さな達成感を感じていた。

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