第11話 喧嘩

2022年9月21日 水曜日


洸一と陽一の二人暮らし開始からまる1ヶ月。最初は距離があったが徐々に慣れてきた。


お互いに(ほとんど自分なのに)遠慮していたのが、ガードも下げまた自然にやり取りするようになってきた。


そうなると、時にもめることも出てくる。


というより、最初はもめるのを怖れて遠慮していたといった方がよいかもしれない。相手の思考や反応が読めるだけに、こう言ったらああ言うだろう、だから・・・といちいち三手先を読んだ言動を心掛けていた。


その日洸一は仕事でちょっとしたトラブルがあり、少し帰りが遅くなった。


陽一はソファにくつろいでTVをみていた。めずらしく時代劇なんか視ている。洸一がただいまーと言ってもこちらに気づく様子もない。


(時代劇なんか好きじゃないはずなのになんで視てるんだ。シカトかよ。何が面白いんだ)


洸一はイラっときた。疲れているのもあるし、トラブルのせいで少し滅入っていたのもある。


「陽一、おかえりぐらい言ったらどうだ」


(しまった。つい感情を表に出してしまった)


「あ 洸一おかえり。遅かったね。おつかれさま」


陽一はねぎらったつもりだったが、苛立っていた洸一の気分を逆なでしてしまった。


「何見てるんだよ。チャンネル変えろよ」


「これおもしろいんだよ。いま流行ってるんだって」


「いいから変えろよ」


「何イライラしてるの?洸一は感情の起伏が激し過ぎるよ」


図星をつかれるとますますイラつく。しかも「自分」に言われるとなおさらだ。いやいやわかってるならここで自分を抑えなきゃ・・・


「おまえだってそうじゃないか。てか俺たち性格同じじゃんかよ」


売り言葉に買い言葉。いかんこれでは泥沼じゃないか。


陽一は洸一の葛藤を察知し、こう言った。


「感情の起伏は誰にだってあるんだよ。ただそれをコントロールできるかどうかのちょっとしたちがいだよ。ねえ、提案があるんだけどね。感情をゲーム感覚でとらえてみないか。お互いいま何感じてるかあえて言葉にしてみようよ。」


洸一はハッと気づいた。そうだ。そうだった。何年か前に読んだ認知心理学の本に書いてあった。自分の感情の動きをむしろ楽しんでみろ、と。


「陽一ごめん。そのアイデアナイス。やってみよう。いい加減成長しないとだしね。ちょっとシャワー浴びてくるから、その後でビール飲もう」


洸一は一皮むけたような気がしてひとりほくそ笑んだ。

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