第7話 対戦

2022年8月29日 月曜日


その日の夜はふたりとも仕事を早く終えて帰ってきた。


洸一は引き続き医療機器メーカーで開発の仕事をしているが、陽一はミッションが手配してくれた医療系の研究機関で研究員をしている。


洸一は仕事がら終業時間が不規則なので、夕飯は別々にとることにしている。早く帰ってきた方が二人分の夕飯をつくるというルールは設けていない。


まだ7時だ。ランニングを日課にしているし、夜ふかしをする方ではない。


そうだ、将棋でも始めようか。


どちらが言い出すでもなく、クローゼットの奥に放置されていた将棋セットを持ってきてダイニングテーブルに置いた。


とはいってもそもそも駒の動かし方の記憶があやしい。

てか駒はどう並べるんだっけ?


そう考えるうち陽一がスマホで調べて駒を並べていた。


洸一は急に感慨をおぼえた。

一人暮らしが長い洸一にとって、夜こんな風に誰かとゆったり時間を過ごすことなんて久しくなかった。


そうか。もうひとりじゃないんだ。


陽一も洸一の記憶を引き継いでいるからきっと感慨を覚えているはず。


なんか照れながらも、一戦交えてみることにした。


2時間ほどで決着がついた。ルールどおりやっているかどうかあやしいところもあったが、98手目で詰み陽一が勝った。


勝ち負けはどうでもよかった。二人の間になにか暖かいものが通じるものがあった。

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