五戒 牛

「元気にしてたかい?」

 北海道で出会った戒盾は牛の名を持つ老人、牛丸だった。車で轢かれたのに、まるで何事も無かったかのようにケロッとしている。

「あー、元気元気。」

「どうしてこんな所に来たんだ?」

「君らを政府庁まで連れて来いってリオンさんが言っとんじゃよ。空港まで案内しよう。着いてきなさいな。」

 蒼猪がしかめっ面をしながら牛丸に言った。

「ちょっと待って。」

「なんじゃ?」

「マジで何しにきたの?」

 蒼猪は牛丸のことを全く信用していないようだった。

「気持ちも分かるが、ワシは何もせんよ。」

「なら使千器しえき出しな。アンタはそれ無いと戦えないでしょ。」

「分かったよ。ほら、これでええんじゃろ。」

 牛丸はランプのような物を蒼猪に渡す。

「空港まで案内して。」

「分かった分かった。着いてきなさい。」

 3人は突然出会った戒盾の1人である牛丸の案内を受け空港に向かった。


「あー、ありがとな牛丸のじっちゃん。」

「腹壊しても知らねぇぞ。」

 4人はアイスクリームを食べながら空港に着いた。しかし、空港には人がいない。

「人いなくね?」

「そのようじゃな。」

「あー、どうすんだよ。」

「あれ見てみんな!」

 滑走路付近に2機ヘリが止まっていて、その近くには10人ほどの人影があった。そいつらは銃をぶら下げていて、見るからに観光客ではなかった。テロじみた事をしているヤツらは、飛行機に近づき次々と何かを貼り付けている。

「人が居なくなるわけだ。」

「どうするんじゃ?」

 光狼が剣の柄を振り巨大な刃を抜剣。虎閃は腿上げ運動をしていた。

「虎閃、飛ばせ。」

「あいよ。」

 光狼が少し飛び、体を地面と平行に向け剣を構えた。

飛射蹴り・狼ひしゃげり・おおかみ

 虎閃は地面と平行になった光狼の足を蹴り飛ばす。光狼はその間、虎閃の脚を使いジャンプの要領で更に推進力を増幅させる。

 光狼が飛ばされた先はガラス。剣を構えていた理由は、飛ばされた先の邪魔なガラスを叩き割る為だった。

 バリ―――

 シャラシャラシャラシャラ

 光狼は恐ろしい速さでガラスに激突し、そのままガラスをぶち破って目標のテロモドキへ向かって行く。

 彗星の如く滑走路に降り立った光狼に、テロモドキ達は問答無用で銃弾の雨を浴びせる。

「待て撃つな!土煙で何も見えん、弾を無駄にするんじゃない!」

「使うか。」

 光狼は両刃の巨大な剣を地面に突き刺し、すぐ引き抜く。

土煙が晴れると、両刃あった剣が片刃になり、地面にはもう1本剣が刺さっていた。

「そ、そいつは叢雲!刺さってるのは羽々斬!?なんで……なんで戒盾の狼がこんな所に!!」

「目的を言え。」

「うるせぇ!お前に話す事は無ぇ!お前ら逃げるぞ!!」

 テロモドキ達は作業を中断してヘリへ向かう。

「神炎の……あ。」

 光狼が叢雲と羽々斬構える間もなくテロモドキ達の首がはねる。

「どう?あたしの『命死いのちし』。」

「久しぶり見たすけど、さすがっすね蒼猪さん。」

 蒼猪は笑いながら紅く禍々しい刀を背中の鞘に収める。その笑顔は、心から楽しそうな笑顔だった。

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