04 SSランク保持者 その1




「教室がざわついている理由? ああ、何でも今年の新入生に、黒髪ロングのスゲー可愛い女の子がいるらしい。まあ、俺には三次元の女なんて関係ないけどな!」


 和真は<黒髪ロングのスゲー可愛い女の子>というワードに反応する。

 何故なら、彼の<どストライク>だからである。


 真菜が黒髪ロングなのも、和真の趣向に併せての事であり、少しでも彼に好かれたいからである。


 因みに下着も彼の趣味に合わせている。


「男だけが話題にするなら、郁弥の言った理由でも納得するけど女の子も話しているのは、おかしくないか?」


「それは、何でもその新入生がSSランクの【天啓(ギフト)】の保持者らしい。俺は三次元女に興味がないから、詳しくは聞いていないけど― 」


 そこでチャイムが鳴り、郁弥は自分の席に戻っていく。


「SSランクの【天啓(ギフト)】か… 」


 和真はそう呟くと、HRを憂鬱な気持ちで過ごす。


【天啓(ギフト)】は、SSランクは言うに及ばず、Sランク、Aランクまでなら、その人生は勝ち組確定である。(戦死しなければだが)


 Sランク、若しくはAランクの【天啓(ギフト)】を得ることができていれば、もっといい人生が、モテモテの人生が送られたのであろうか… 和真はそのようなことを夢想してしまう。


 HRの後、始業式の為に体育館に向かう。


 体育館に着くと体育館でも、SSランク【天啓(ギフト)】の保持者で黒髪ロングの少女を、みんながチラチラ見ながら、思い思いに会話している。


 みんなが見ている視線の先を見ると、そこには新入生の列に立つ真菜の姿があった。


「やっぱり… 真菜か… 」


 噂の<黒髪ロングのスゲー可愛い女の子>が、真菜の事であると確定して和真はがっかりする。


 すると、そんな和真の気持ちを察知したかのように、それまで正面を向いていた真菜が首だけこちらに向けるとピンポイントで和真を見つけて、ヤンデレ目で見つめてくる。


(怖い!)


 和真は思わず横に立っている生徒の影に隠れてしまう。


 えっ? もちろん後でお仕置きですよ?


 そして、その事が解っていた和真は、始業式が終わりその後のクラスでの自己紹介、代表を決め、昼頃に解散すると真菜に会わないうちにすぐさま家に逃げ帰る。


 しかし、家が同じである以上、これは何の意味のない行動であり、むしろ後から家に帰ってきた真菜は、先に一人で帰えった罪も加算して和真の扉を叩き続けている。


義兄にいさん。今部屋から出てきたら、腕一本で許しますよ~? 早く出てきてくださ~い」


 和真は扉を叩く音が響く自室のベッドの上で、布団を頭から被り膝を抱えて震えていた。


「冗談ですよ。早く出てきて、お昼ごはんを食べましょう」


 その言葉を聞いた和真は、扉を少し開けて真菜を見ると彼女はヤンデレから、いつも通りの美少女義妹に戻っており、その表情には殺意も毒気もない。


「本当に?」


 和真が扉の隙間から、そのように質問すると真菜はこのような確約をしてくる。


「本当です。もし、嘘だったら、私の体を義兄にいさんの好きなようにしていただいても… いえ、むしろ今から欲望の赴くままに好きにしていただいても… 」


 そう言った真菜は、恥ずかしそうに顔を赤くさせながら、体をもじもじさせている。


「お昼を食べようか…」

「無視ですか!?」


 和真がその言葉を無視して、リビングに向かうと真菜は不満そうな表情で、その後を追いかけてくる。


 彼女が大人しく引き下がったのは、和真の母親が帰って来ていたからである。


「ごめんね。母さん、また直ぐに職場に戻るから、家のことよろしくね」

「はい」


 しかし、着替えを取りに帰ってきただけで、リビングの二人に2、3言葉を掛けるとまた職場に向かってしまった。


 和真の両親は仲がとても良かったので、夫の思い出の詰まったこの家にいるのは辛いのか、母親はこの家には着替えを取りに戻ってくるぐらいであった。


 二人もそれが解っているので、無理に引き留めようとはしない。


 次の日―


 和真は6時に義妹に部屋を襲撃(犯人は起こしに来ただけと供述している)されたために、あくびをしながら【討伐者育成学校】で戦闘訓練を受けていた。


「よう、眠そうだな。だが、ソレも仕方がないな。昨日の深夜アニメはアツかったもんな! 俺も眠くて眠くて…」


(友よ、俺は違う理由だ… でも、その理由のほうが良かった… )


 和真が受けているのは【超自然的魔力(マナ)】を使った攻撃術の訓練で、大気中に漂うマナを扱って、攻撃用の矢や投げやり槍などを空中に作り出して、目標に飛ばすという訓練である。


 マナ操作のスキルLvの高い者やギフトを持つ者は、ビーム状や複数の弾や複数の矢、それこそ複数のビームを撃ち出すことも出来る。


 名前は特に決まっておらず、使用者によってばらばらで、そもそも決まった形状で撃てということもなく、使用者がイメージしやすい形に作り出してマナを撃ち出す事になっている。


 和真のマナで作り上げられたマナの弾はゴルフボールぐらいで、光輝きながら的に向かって飛んでいくと当たる前に大気中に拡散して消えてしまった。


【超自然的魔力(マナ)】を扱うマナスキルは、【人為的魔力(オド)】を扱うより、遥かに難易度は高く、こうなってしまうのは彼だけではない。


 次の授業は基礎体力で、一時間学校の周りを走ったり、腕立て伏せなどをしたりして、基礎体力をつける。


 和真がヒィヒィ言いながら、学校の周りを走っていると学校の校庭に、空から細いマナの光の柱が降りてくると轟音と共に地面を揺らして盛大に土煙を上げる。


 和真は学校を覆う金網から、土煙に覆われた校庭を見ると、土煙の中に真菜の姿が見えた。


「月浦! やりすぎだ!」


 真菜に教官の怒号が飛ぶが、彼女は身体についた土煙を払いながら、


「やりすぎって… 私は、これでもかなり抑えたほうですが?」


 表情を変えず淡々とこのような、まるで俺tueee主人公のような事を言い出す。

 どうやら、この騒ぎは真菜が放ったマナによる攻撃のようだ。


 彼女の【天啓(ギフト)】は、<マナの支配者マナルーラー


 厨二ちっくな名前であるが、れっきとしたSSランク評価の能力であり、世界でも3人しか有していない超絶レア能力である。


 その能力はマナを自在に操る能力で、簡単に説明するとオド使用者がマナという海で、足元の海水から補給しながら水鉄砲で攻撃、マナ使いがコップか何かで足元から海水を掬って、それを掛けて攻撃しているのに対して、真菜は一人バケツで掬って攻撃しているようなモノである。



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