第19話

「大丈夫か?美妃奈」


「とりあえず、向こうの方行くぞ」

「う……ん」

美妃奈は手を取って歩く最中でも、咳をし続けている。

次第に激しさを増していってようやく人がいない休める場所に差し掛かった時には仰け反るようにしながら胸を抑えて咳をしていた。

意識が朦朧としているかのような口調で美妃奈が話す。

「美空……ちゃん……だい……げほっ、こほっ、じょうぶ……かな」

「こんな時くらい自分のことを心配してよ!」

休憩場所に着いたあたりで救急車を呼んだが、来る前にー。

嫌な想像が脳内を駆け巡る。

もうすっかり目を閉じてしまった美妃奈を抱くようにしながら、救急車を待つ。

永遠の時間にも感じられたが実際はそんなに立っていなかったらしい。

慌てながらも一緒に救急車に乗り込むと、美妃奈が息も絶え絶えといった様子で係員にカードを渡していた。

「それ、なんのカードで…」

「患者様のプライバシーに関わるのでお見せすることはできません。」

いつになく固い口調だったので諦めたが、それどころでは無い。

「美妃奈!意識……もどったんだ」

「うん……はるるん…おかげ」

まだ眠った様な口調だが辛うじて会話は成立している。

この時の僕は、まだ

こんなことになるなんて

気づかなかったし、気づきたくもなかった

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