第8話 あ、悪魔が礼拝に……

 今日は礼拝の日だ。ウリエルが連れて行けとうるさいものだから連れて行くことにした。


 僕には一抹ならぬ巨大な不安があった。周囲から見れば何故幼女を連れて歩いているのか説明出来ないからだ。


 道端で職質されたら間違いなく案件に入る部類だ。きっと新聞の何面かを飾る羽目になるんだろうな。


 しかし、不安は別の意味で裏切られた。誰もウリエルに気付かないのだ。どういう原理かは知らない。皆、ウリエルを認識出来ていない。


「ウリエルさん、これはどういうこと?」


「みつかいたちはすがたもかくすのもあらわすのもとくいなんだよー」


 成程、この会話さえ皆が不審に思っていない。御使いは人の意識に干渉する力があるらしい。別に予想すべきことだったが。


 よく考えれば、聖書そのものの御使いの登場の仕方が不自然なのに自然そのものに描かれていることを失念していた。全てがそうである訳ではないが、確かに不自然な場面は存在する。


 超自然的存在がいかに人間に認識出来ないかが改めて判った瞬間であった。


 定位置に着き、ウリエルは横にチョコンと座る。


 とてもシュールな光景だな。本当に周りには見えていないんだな。


 今日、メランコリアさんは未だ来ていない様子だ。


 メタンコリアさん。教会にて最も頼りになる兄弟にして気高い一族の人なのに気さくさで地域の人々に好かれている信徒。僕みたい卑しい身分の人間にも気軽に接してくれる良い人だ。


 しかし、安心は別の意味で裏切られた。


 誰? メランコリアさんの横にいるのは誰だ? イスラム教の服装の一つであるアバヤを纏ったその女性は目元と手足以外布に覆われているのにかんなり色欲をそそる体型をしているのが判る。


 そして、不思議なことに誰もその女性に気付いていないのだ。


 メランコリアさんは女性を連れて席に着いていた。メランコリアさんもこちらを見て一瞬驚いた表情をした後、礼拝の為の準備を始めた。


 誰だろう? そう訊ねるには余りにも僕は臆病者だった。礼拝が終わってすぐにウリエルを連れて速めに帰った。


「ウリエルさん、あの女性を見えていた?」


「うん、ベリアルだねー」


 ベリアル? 昨日言っていたあのベリアル?


「でも、ベリアルって男色の悪魔だったよね? あの人女性じゃん」


「ファルマコはせんにゅーかんにとらわれすぎだよう」


 確かに男の天使だと思っていたウリエルが幼女で現れたならば、ベリアルも女性で現れてもおかしいことは何一つない。


 

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