第28話 マリアンの本性

「シモン王太子殿下とマリアン。私、実はまだ他にもお見せしたい録画がありますの。これは事件とは無関係のものですので、事件の証拠となるようなものではありませんが、その録画には何が映っているでしょうね? 録画は全部で三つですわ」



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 ブロワ公爵邸の玄関付近の廊下にて、ルイズとたまたま玄関付近を掃除していたメイドがすれ違う。


「ねえ、そこのあなた」


 ルイズがメイドを呼び止めた為、メイドは作業の手を止め、ルイズに何の用件か尋ねる。


「奥様。どうされましたでしょうか?」


「今日のエレオノールの分の夕食を抜くよう料理長に言いなさい」


「……かしこまりました」



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 エレオノーラはここで一旦停止させ二つ目の録画を再生させる。



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 エレオノーラの私室。


 マリアンが誰もいないのを確認してこっそりと侵入する。


 部屋の主であるエレオノーラは只今外出していて不在だ。



 侵入したマリアンはクローゼットに向かい、クローゼットをバーンと開け放つ。


「さて、お義姉様のドレスをボロボロにして着られないようにしようっと。着ようと思ったドレスがボロボロで着られなくなって悲しんでいるお義姉様の姿を見られるかと思うと気分がいいわ! あのいつも澄ましたお義姉様の顔、大嫌いなのよね。大体私よりも美しくて生まれながらの公爵令嬢でおまけに賢いなんて本当に気に食わないわ」


 そんな独り言を漏らしながらマリアンは部屋に持って来ていた鋭いナイフでドレスを思い切り切り裂く。


 日頃の鬱憤を晴らすように力を込めて振りかざされる凶刃はあっという間にドレスを無惨な姿に変えた。



「ふぅ~これで良し! ついでにアクサセリーも何か貰っちゃおうっと! どれにしようかな~?」


 アクセサリー類を収納しているケースを開けると、真っ赤な大粒の宝石が付いたペンダントがマリアンの目に入る。


「これにしよう! 宝石が大きいからなくなったことに流石に気が付くだろうけど、今まで盗んでも何も言われなかったからきっと何も言われないはずよ。この大粒の見事なルビーだってお義姉様より私が身につけていた方が似合うわ。こんなに侵入し放題の部屋にこんなアクセサリーを置きっぱなしにするなんてどうぞ差し上げますと言ってるも同然よ。ふふっ、間抜けなお義姉様。でも、美味しい思いが出来るから教えてあげないけどね」



 マリアンはナイフと真っ赤な宝石が付いたペンダントを持って部屋から退室する。



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 エレオノーラは再度ここで録画を一旦停止し、すぐにまた別の録画を再生させる。



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 ブロワ公爵邸のリビングにて。


 エレオノーラはソファーに腰掛けて、メイドに淹れてもらったお気に入りの紅茶を優雅に飲みながら、本を読んでいた。


 そこにマリアンとルイズがやって来る。


「ねぇ、お義姉様、そのエメラルドとダイヤモンドのネックレス素敵ね。私にちょうだい!」



 エレオノーラはその時、小粒の翡翠色の宝石と透明な宝石が交互に複数個連なったデザインのネックレスをしていた。



「何故あなたに差し上げなければならないのですか。これは私のお気に入りのネックレスですのよ?」


「ママ、お義姉様は私にくれないって」


 エレオノーラの返事を聞いてマリアンはしょんぼりする。


「ネックレスくらいいいじゃないの。姉ならば妹がほしいものは譲るのが当たり前よ。マリアンに譲りなさい」


「嫌ですわ」


 エレオノーラが拒否するとルイズは素早くエレオノーラの背後に回り込み、首の後ろ側にある金具を外し、ネックレスを奪う。



「はい、マリアン。あなたの方が似合うわね」


「わーい! ありがとうママ!」


 そして二人はそのままリビングから去って行った。



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「シモン王太子殿下。とある方が私に教えて下さったのですが、あなた、マリアンからブロワ公爵邸では私に虐められていると言われたそうね。どうですか? 今お見せした動画をご覧になられた感想は。マリアンが私から受けたと言われる虐めは私ではなくマリアンとお義母様が私にしていたことですわ。自分がやったことを私と立場を置き換えて被害者になろうなんて浅ましいですこと」


「マリアン、君は私に嘘をついていたのか……?」


 シモンが縋るような目でマリアンを見るがマリアンは俯いて目を合わせない。


 しかしその態度が全てを物語っていた。


 マリアンは自分がやったことを立場を入れ替えても証拠付きで発覚することはないと思っていたのだろう。



 発覚した時、全てを失うことになるのに。


 シモンからの寵愛も王太子妃の地位も。


 これでは嘘をついてシモンの同情を買い、寵愛を得て、邪魔なエレオノーラを消した悪女だ。


 卒業パーティーでは意気揚々とエレオノーラを悪だと言っていたが、マリアンの方こそ悪役と呼ぶに相応しい。



「マリアン。あなたは録画の中で私のことを間抜けだと嘲笑していましたが、あなたの方こそ間抜けですわ」


「私のどこが間抜けだと言うのよ!?」


 自分が間抜けと言われたことに我慢ならなかったのか、マリアンは食って掛かるように叫んだ。


「あなたが嬉々として盗んだ赤い宝石のペンダントも翡翠色の宝石と透明の宝石を使ったネックレスも、本物のルビーとエメラルドとダイヤモンドではありませんわよ。本物そっくりに作られた偽物。見事に騙されて滑稽でしたわ」


「本物じゃなかったの!?」


「嘘だと思うなら鑑定士に鑑定を依頼してみなさいな。私から奪ったものはどれもこれも見た目だけはキラキラ輝いているけれど価値はとても低いものばかり。……あら、あなたみたいですわね? 見た目は悪くないのに中身は醜悪。あなたにはお似合いの品々よ」

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