第3話 異世界からの手紙

 今日も仕事を終えた後、私は古い書物に向かっていた。

 ここ最近の日課になっている。


 読み進めていくうちに、この見たこともない記号は、やはり漢方薬の持っている効果を高めるものに違いなかった。

 加わる記号によって、高められる効果がそれぞれ違うのだ。


 その中でも、光と示される記号が加わるととんでもないプラスの効果が得られるようだ。

 逆に、闇と示される記号が加わると、真逆の効果が高まると思われる。


 恐ろしいことに、疲労回復や免疫機能を高める漢方に闇の記号が加わると、身体機能停止を思わせる記載があるのだ。

 ある意味、毒薬みたいなものになるってことかもしれない。


 もちろん、今の医療で使われている薬でも、予期せず、身体に大きなダメージを与えるものはたくさんあるわけで、実際に副作用で苦しんでいる人たちも、少なくはない。


 しかし、この古めかしい書物の調合での効果は、まるで、即効性、かつ効果絶大な魔法薬のように感じられたのである。

 とは言え、この記号が意味するものが存在しなければ、作ることは出来ない。

 ここでお手上げなのである。


 つまらなかった日常から突然興奮の日々に変わったのも束の間、目の前の扉を閉められた気分であった。

 そして、祖父からの手紙は自分の手元に置いておき、古い書物については元の扉の中に戻すことにした。


 祖父が父ではなく私に手紙を残した理由はなんとなくわかるのだ。

母も一人娘で、父には婿に入ってもらっていた。

 この手紙はもしかしたら、母が亡くなった時に書いたのかもしれない。母をみて、祖父もいつ旅立つかわからないと感じ、すぐに私に手紙を書いたのでは・・・。


 祖父の本棚に元通り書物を収納しようと、薬華異堂の店舗に移動した。

 私は見つけた時と同じ場所の本をどかし、奥の扉を開いたのだが。

 

 ・・・私は自分の目をうたがった。

 何も入ってないはずの扉の中に、見覚えのない布で出来た袋が置かれているのである。

 

 そう、まだまだ、つまらない日常に戻ることはなかったのである。


 自分しか知らないはずの、その扉の中に何かが入っているなど、想像する事が出来なかった。

 ありえない状況に恐怖すら感じても良い状態であった。

 だが、恐怖より興味の方がはるかに上回っていたのだ。

 見覚えのない袋を開けると、手紙が入っていた。

  

『マサユキ


 マタチカラ ヲ カリタイ コチラ ニ キテクレ

  

                ヨク=ケイシ 』


  

 マサユキ?あ、おじいちゃんの名前だ!


 袋の中には手紙の他に、とても綺麗な光る粉も入っていた。


 綺麗な粉・・・これをどうしろって言うのだろう。

 そして、私は本で見たような模様を見つけたのだ。


 その袋には、綺麗な糸で、ある模様が縫い込まれていたのだ。

 あの古めかしい書物の最後に書かれていた模様なのだ。

 そう、魔法陣のようにも見える模様。

 本にはその隣にこう書かれていた。


 『転移』


 そして、書物の間に、何の素材かわからないが、古びた袋と、1メートル四方の布のような物が折り畳んで挟んであったのを思い出したのだ。


 そのどちらにも、同じ模様が縫い込まれていたのであった。


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