第2節

 マーヤはノアを店舗の裏の工房へと案内する。

 そこでは一人の少女がフレームの加工をしていた。


「アンナ、試作品、コイツに見せたげて」

「試作品…ですか?」

「そう。いっぱいあったでしょ?」

「分かりました。持ってきます」


 アンナと呼ばれた少女はいそいそと工房のはしみ上げられたカゴをノアの前と置く。


「これが試作品です」

「見て良いわよ」

「じゃ、遠慮えんりょなく」


 ノアはかがんで試作品を見ていく。

 ノアが作品を見ていると横からアンナが話しかけてくる。


「あの、なんで私のを?師匠の物の方が良いんじゃ…」

「うーん、そうでもないと思うけど」

「へ?」

「いや、意外と良い作品があるから」

「そうですか?」

「うん。これとか、まあ表に出してもらうのは時間がかかるとは思うけど、頑張って」

「でも、師匠は微妙びみょうって…」

「あー、アイツはそうだろうな」

「?」

「アイツの作品、見たことあるなら分かるだろうけど、見た目より機能性を重視してるからな」

「言われてみれば、師匠の作品はあんまり装飾そうしょくがないですね」

「…まあ、あいつの育った環境のせいもあったんだろうがな」


 ノアは誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

 アンナはなにやら考え込んで言う。


「あの、シネルさんはコレを作るならどんなのを作りますか?」

「?どういう意味だい」

「そのままの意味です。どんなのを作るか、気になったので」

「…ああ、気になるなら僕の工房に来るといい。実物がある」

「え?シネルさんは燈屋ともしびやなんですよね」

「そうだよ。でも、フレームとかも作れる。だから、依頼さえあれば作る」

「オーダーメイドってことですか?」

「そう。例えば、婚約者へとプレゼントとかね」

「オーダーメイドの魂灯カンテラですか…。良いですね」

「まあ、値が張るからあんまり人は来ないけどね」

「どのくらいするんですか?」

「ガラス無しなら五千エリル、ガラスめと魂入れも含めたら一万エリル」

「高いですね…」

「まあ、フレーム自体の素材が高いしね」

「そうなんですか?」

「標準はレルガ鉱石とヴィゲーン鉱石の合金だからね。ま、変えれるけど」

「レルガは柔らかすぎじゃ?」

「そうだね、レルガは柔らかい。けど、ヴィゲーンはその分、硬い」

「…つまり丁度いい硬さにする、ってことですか」

「正解。二つの対比で用途別に作ってる」

「初めて聞きました…」

「ま、こんなのは普通、合金屋の仕事だからね」

「すごいんですね」

「レルガとヴィゲーンの鉱脈があるところに知り合いの貴族の領があってね」

「ああ、なるほど。普通の人じゃできませんね」

「そういうこと…。あ、これ良いな」


 ノアは黒を基調とした鉱石ランプ付きのフレームを取り出す。


「あ、それは私の処女作です」

「…マジか。個人で欲しいくらいだわ…」

「その、師匠が許してくれるかは分かりませんが良ければ作りますよ?」

「良いのか?」

「はい!こんなに絶賛ぜっさんしてくれた人初めてですし!」

「意外とアンナって抜け目がないよね」


 突如として背後から聞こえた声にアンナはおど尻餅しりもちく。

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