日本ガラパゴス学会

 カシマは絶句した。

「世界中のスマートフォンには邪心が宿っています!!直ちにその忌まわしき物体から手を離し、"最聖・ガラパゴス大聖人"がおつくりになられた御神水を両手にかけて、心身をお清めください!!!」

 ああ、カルトだなこれは。上の宗教感漂うセリフは、さっき目があった黒髪の美少女が約7秒程の時間をかけて喋ったものである。ガラパゴス大聖人とかいう教祖?みたいなやつには二重敬語が使われているようだ。

「え___、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

とりあえず平常心を保つことが大事である。

「はいっ!私は『日本ガラパゴス学会』に所属している鷲本あずさと申します!どうぞ宜しくお願いしますっ!」

そう答えてくれると、彼女は丁寧にお辞儀をした。一瞬、長い黒髪が慣性にのっとりふわりと靡く。優雅かつ俊敏な動き。

「私の会では、このような本を出版しているのですが…」

間髪入れずに彼女はポシェットから綺麗な新書を取り出した。題名は__



「素晴らしきガラケーの世界…ねぇ」

まぁ、予想はついていたのだが、あまりにも露骨すぎやしないか?

「この本には、ガラパゴス大聖人の素晴らしき説法や、スマートフォンによる国民の洗脳の話、ガラケーの在り方についてを紐解く論文などが記載されています。あなたの人生をより豊かにする"鍵"となる本なので、一度手にとってもらえると嬉しいです!」

満面の笑みを浮かべる彼女に思わず見蕩れてしまって、話を聞いていなかった。

「もー、ちゃんと聞いてるんですか?」

目の前に彼女の膨れ顔が。正直いってかわいい。

「あ、すみません。もう一度お願いしていいですか?」

「まぁいいです。この本プレゼントするので是非読んでください!あなたもきっとガラケーの虜になる事間違いなしです!」

そう言いながら、彼女は縦18.3cm横12.2cmの新書を渡してきた。

「あっ、そういえば、貴方の名前を聞いていませんでしたね。」

「あ、名乗り遅れました。鹿島秀俊といいます」

「鹿島さん…いい名前ですね。よろしくおねがいしますっ」

「こちらこそ宜しくお願いします」

お互いにお辞儀をした。

「じゃあ、この後会館に行きませんか?百聞は一見にしかずってよく言いますし、どんな所かを見てもらいたいなーって。鹿島さん、この後時間空いてますか?」

彼女が上目遣いで聞いてくる。_____待てよ?





 ここで頷いたらもう戻ってこれないという事が直感的に分かった。畜生、最近の新興宗教はこんなに可愛らしい少女を使って勧誘するというのか。こりゃ男が釣られるわけだ。ここで従って会館の門をくぐり抜けたが最後、御本尊を前にして涙を流す学会員とともに勤行をし続ける日々が訪れるであろう。目を覚ませ!入信しても鷲本さんにもう一度会える保証なんて無いんだぞ!!くそっ!!!















気づけば、俺は会館の門の前に立っていた。











 



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