苦悩の果てに 

宣告がそこにあった

それは辛いという言葉でしか思いつかない

いや、言葉ではなく僕の苦しみへの道しるべだった

僕は、死刑執行官という名の刑務官に任命されていた

小川のせせらぎの音を求めていたのはこの理由以外になかったのだ

せせらぎの音は今はなく、彼女も今はいない

存在するのは僕が殺人を犯した者への殺人だ

そう、僕も殺人犯なんだ

佐藤和明という名の殺人犯として

この苦しみは小川で癒されたのではないだろうか

いや、そうではなかった



宣告は一つではない



白い霧がある女性の中を覆っていた

霧とは叶わない絶望の象徴であった

霧はいつかは消えていく、彼女はその存在が続くことを願う

しかし、果たして霧は残り続けるのだろうか

彼女の霧とはなにをさすのか

彼女は不治の病に侵されていたのだ

彼女の母親は悲しみを少しでも、癒してあげる手段しか持ち合わせていない

母親はその思いを伝えるも彼女はそれを信じない

信じることができないのだ

信じざる得ないのは現実という響き

窓を開けると霧は消失していくも、突き刺すような風を感じた

突き刺すような風の後には優しい夕日の光が窓から見つめる

彼女とベットの近くにあるネームプレートに

後藤美香という文字を写し出されていた

果たして、彼女には何が待ち受けているのだろうか

霧は覆い続けることが出来るのか

現実を彼女は受け入れられるのだろうか


和明は罪悪感という現実から逃げることが出来ない

友人を誘い酒でごまかすことが逃げる唯一の手段にしか過ぎない

解決できるはずとは思いつつも

友人も同じ思いだった

思いを覆すことが出来るのだろうか

悪夢が襲う

次の日も襲う

その次日も襲う

その日々が繰り返された


時はやがて来た

周囲には数名の刑務官がいる

誰が執行というボタンを押そうと関係ない

その中の僕が死刑執行人という名の殺人者であるのは間違いなかったからだ

目の前にあるボタンを押すことができるのだろうか

なぜか、僕の脳裏に彼女との小川での出来事の残像が写る

待つことを知らない時は僕にボタンを押す勇気を無理やり与える

勇気とは悲しい響き

これから、悲しい音と共に死という響でもあるのだ

僕の気持ちは何処に持っていけばいいのだろうか

せめて、彼女にもう一度会えないだろうか

暗闇と切ない中に僕はいた


そして遂に彼は現実と遭遇する

悲しみの音が彼の胸に突き刺さった

それは現実として当然の事であったが

彼には受け入れることは容易ではなかった

自らが殺人者となることへの罪悪感から来る恐怖

後悔の念

それは生涯において消すことは出来ないであろう

ただ、もう一つ消せないものが彼の心にあった

小川で出会った女性への想い

出会える日は訪れるのだろうか

それとも、彼は苦しみ続けるのだろうか


知っているのはホタルだけかもしれない

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