第29話 EX1-1少年と青鉄色の機兵
『悪い、ちょっと借りるな』
そう言って無人の変電所から電気をこっそり拝借しているのは体長約10mほどの青鉄色の機兵。
時間にして2時間ほど。内部バッテリーと大腿に取り付けた予備のバッテリーの充電が完了すると機兵は立ち上がり辺りを見回した。
『半径20km範囲内に巨獣の反応なしと……』
巨獣の反応がないことに機兵が安心していると、突如けたたましくアラートが鳴り響き、レーダー観測域ギリギリのところに赤い点が点滅する。
(ギリギリすぎて気づかなかった!いつからだ?あいつはいつからあそこにいた?)
巨獣を示す赤い点の先には町が存在していた。焦りと不安を胸に機兵は町へと急ぐ。ものの10分もしないうちに機兵は町に到着していた。
到着した町の惨たらしい様子に機兵は言葉を失った。建物はなぎ倒され瓦礫の山となり、火元不明の火災で木造の建物が焼け焦げ黒い煙を上げる。動くものの姿はなくいたる所に赤黒いしみが点在している。今、動いているものは機兵と町の中央で満足げに唸り声を上げている巨獣だけ。
(間に合わなかった……)
膝から崩れ落ち俯いた機兵はうつ伏せに倒れそうになるのを両手で支えた。
(……誰も助けられなかった)
悔しさで身を支える機兵の両手が地を掴む。悔やむ機兵を前に巨獣は次の獲物はいないかと口元を赤く染めながら首を回し、辺りを見回していると人に似た形のものを見つけた。あれはなんだ?と興味に駆られて巨獣は青鉄色の機兵の元へと歩み寄る。
≪巨獣接近≫
電子音声が機兵に警告を放つ。咄嗟に顔を上げた機兵の前には齧ろうと大きく口を開けた巨獣の顔があった。とっさに飛び起き後方に飛んだことで機兵は難を逃れた。
獲物が逃げたことに巨獣は不愉快だと言わんばかりに低い唸り声を上げながら再度齧ろうと機兵に迫る。自身とほぼ同じ大きさの巨獣を前に機兵は両腕に折りたたまれていたブレードを展開させ交差に構える。
巨獣のナイフのような歯の並んだ口が機兵の頭に達する直前、交差に構えられていた機兵のブレードが左右に開いた。ザンと肉を断つ音と共にあたりに赤い飛沫が飛び散り、ドスンと胴から離れた巨獣の首が地面に落下する。
バケツをひっくり返したような赤い液体が機兵を濡らしたが、機兵はそれには構わず二、三度ブレードを振り血を拭うとブレードを折りたたんだ。
敵を倒したというのに機兵からは喜ぶという雰囲気はなく、ただ、申し訳なさと惨状を悲しんでいるような雰囲気だけがあった。
(そろそろ、ユーミルの討伐隊が到着する頃だな)
機兵は巨獣討伐国家ユーミルに主を殺害し脱走したとして追われていた。このままこの場に止まっていれば捕獲される可能性が高い。捕獲されれば自立AIの人格である自身は間違いなく消滅させられる。
其れだけは絶対に阻止したい機兵は悔やみながらも町を後にしようと一歩ふみだそうとした足元に懸命に機兵に何かを伝えようと吼える小さな子犬の姿を目にした。
『俺に何か伝えたいことがあるのか?』
機兵が尋ねると子犬は意図が伝わったと思ったのか、ついて来いと瓦礫の山に向かって走り出した。
小山ほどの瓦礫の山の前で子犬は足を止めるとしきりにその場を掘り始める。
『この瓦礫を退かせばいいんだな』
是と応えるように子犬は大きくワンと鳴いた。慎重に瓦礫の山を退かしていくと泥と埃まみれの少年が掘り出された。目はしっかりと閉じられていたがどの胸は浅く上下を繰り返している。
『生存者……。生きててくれたんだ』
泣き出しそうな声を出しながら機兵は胸部甲を開くとコックピットに少年と子犬を詰めると一番近い集落へと駆けだしていた。
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